12月6日の毎日新聞で、「産業雇用安定助成金」という、「在籍出向により雇用シェアを行う企業」に対する助成金制度が創設されるという報道がありました。
これまでの助成の場合、出向元企業だけが対象で、出向先企業に対しては助成がない状況で、「出向よりも休業を選ぶ企業が多い」という状況がありました。
出向の仲介などについては、以前より国と各種団体が創設した「産業労働センター」という団体が担っています。
産業労働センターのサイトに、現在の雇用シェアに関する雇用調整助成金の説明PDFがありますので、かみ砕いてみましょう。
どういう出向が対象?
- 雇用の維持を図ることを目的に行う出向
- 出向後は元の事業所に戻って働くことが前提
- 出向元と出向先で労働者を交換するなど、玉突き雇用・出向を行っていない
- 出向元と出向先が、親子・グループ関係にない
- 出向期間は1ヶ月~1年
等が対象です。
出向の場合の助成額は?(12月上旬時点・「産業雇用安定助成金」スタート前)
- 出向元のみに助成
- 出向労働者に出向前に支払っていた賃金とおおむね同額を支払うことが必要
- 助成率の上限は、中小企業 3分の2 大企業 2分の1
- 出向元が出向労働者の賃金の一部を負担する場合、以下のいずれか低い額に助成率をかけた額を助成。
1 出向元の出向労働者の賃金に対する負担額
2 出向前の通常賃金の2分の1の額
(8,370円 × 330/365 × 支給対象期の日数が上限)
ここで、仮に上記資料のように、「出向時の賃金日額を18,000円とします、そのうち出向元が賃金を4割を負担します(つまり出向先、新しく働いてもらう企業が6割負担)」、というケースの場合、
出向元の元々の負担:7,200円
出向先の元々の負担:10,800円
となります。
現状だと、出向元の負担分のうち、中小企業 3分の2 大企業 2分の1を上限として、仮に出向元が中小企業だとすると、3分の2の4,800円は助成されます。
そのため、出向元の負担は、2,400円ですむことになります。
ただ、出向先の負担に対する支援に関しては、12月上旬時点だと、特にない、つまり、賃金をそのまま負担する必要があるというのが現状です。
もちろん、受け入れる企業側としても、通常よりも少ない負担で、優秀な人材を受け入れできるというメリットはあります。
ただ、新型コロナウイルスの影響を加味した雇用調整助成金だと、1人1日上限15,000円、企業規模や雇用維持の有無に応じて、3分の2~10分の10(解雇を行わない場合、大企業で4分の3、中小企業で10分の10、つまり全額)。
出向による雇用維持の制度だと、上限が8,370円なので、「これだったら、雇用調整助成金を利用して、出向より休業の方がお得じゃないか?」と考える企業も少なくないでしょう。
もちろん、国もこの差に関して認識しており、
- 従業員を受け入れやすくなるよう出向先も対象に含めて負担を軽減
- 来年3月以降に、段階的に縮小する予定の雇用調整助成金の特例措置と大きな差が出ないよう制度設計
という形で、制度を考えて行く方向のようです。
このように、現状は「出向より雇用調整助成金の方が、企業にとってメリットがあるケースが出てくる」という状況ですが、今後両制度のバランスが取られるよう、新しい制度が構築される見込みです。