今後の事業環境のペインポイント・課題は?事業承継について分解すると、様々な課題が見える
次は、今後の日本の事業環境におけるペインポイント、課題について触れていきます。
経済産業省とボストン・コンサルティング・グループのペインポイント事例で触れられていた点は2点とシンプルですが、これ以外にも相当数のペインポイントがあると考えられます。
事業環境のペインポイント
まず、資料内で挙げられたポイント2点として、
事業環境のペインポイント
- 事業承継が困難
- 起業のリスクが大きい
がピックアップされています。
事業承継・起業リスク、双方とも非常に複雑なため、それぞれを細かく分解していきましょう。
事業承継が困難
事業承継が困難という事情を分解していくと、
- 事業を継ぐ人がいない
- 事業に必要な技術を承継できない、承継に時間がかかる(製造業・造園業・農林水産業・製菓業・伝統工芸など)
- 事業を継ぐ人はいるが、持株や代表者個人の金融機関などに対する連帯保証が存在する
- 事業経営者自身が、事業承継に関して後ろ向き
- 事業に関する借り入れが多額で、返済のために事業継続が必要で、事業の受け手・買い手もいない
- 一身専属の業態や許認可が必要な業態(医業・士業・不動産業・個人に対して許認可が出ている業種など)で、専門の資格者や、許認可の要件に該当する引き受け者・法人が見つからない
- 事業を売りたいが、買い手がおらず、事業面でも魅力に乏しい
- 事業が小規模で、現在の仕事で手一杯のため、事業承継にまで意識を向ける余裕がない
など、複数の要因が思い浮かびます。
事業を継ぐ人がいない
多くの小規模事業者、特に地方にとって大きな課題といえましょう。
例えば、子どもはいるが都会へ出てしまって、都内・海外で別の仕事をしており戻ってこない、社員の中にも後を任せられるだけの人材が育っていないというケース。
事業が大きく成長しており、継ぐメリットが明確であれば、子どもなり社員に継がせることもできますが、一朝一夕では行かない問題です。
事業の継承が難しい場合、近年は中小規模の事業者向けM&Aも増加しているため、会社売却という「事業の出口」を作れるケースもありますが、業況や適切なM&A事業者、買い手とのマッチング、従業員がいる場合は従業員の理解や雇用維持のための配慮も要されます。
事業に必要な技術を承継できない、承継に時間がかかる(製造業・造園業・農林水産業・製菓業・飲食業・伝統工芸など)
これも都市・地方を問わず多くのスモールビジネスにとって、事業承継の大きな足かせとなる課題ではないでしょうか。
農林漁業などの第一次産業や、工業などの第二次産業、調理・製菓(特に和菓子)などの技術が必要になる第三次産業で、経営者が主体で動いている業務だと、技術を持った経営者の存在=事業の価値となるケースも多いです。
伝統工芸や庭園業、酒造、農業、和菓子職人、パン職人、パティシエなど、独自のノウハウ、技術は、一朝一夕で引き継げるものではありません。
近年で話題になったのは、「痛くない注射針」の製造で一躍有名になった「岡野工業」の廃業です。
この会社は、経営者の岡野雅行氏の技術力・人間性など、「岡野氏あっての岡野工業」であり、子どもが二人いてもどちらも引き継ぐ意思はなかったというケースで、惜しまれながら事業を廃業することとなりました。
筆者が住む地域の近隣でも、規模を拡大、多店舗化を図り大きくなる和菓子・洋菓子店がある一方、地域に根強く愛される、昔ながらの小規模な和菓子店などが店を閉める事例もちらほらと見ます。他業種でも、「業種固有の重要技術を身につけているのが経営者自身」というケースだと、速いうちから信頼のおける後継者を育成しないと、いざというときの事業承継が難しくなります。
同族経営に関しては、否定的なニュアンスが聞かれるケースもありますが、こと技術を要する事業の承継においては、「身内、子どもであれば辞める、逃げる可能性が少なくなる」という点で、技術の持ち逃げや独立される心配なく、技術を惜しみなく、また身内だからこそしっかりと時間をかけて伝えられるというメリットは強いです。
事業を継ぐ人はいるが、持株の扱いや代表者個人の金融機関などに対する連帯保証が存在する
身内、あるいは従業員に、「事業を引き継ぐだけの能力があって、事業承継をしても問題ない」という状況になったとしても、まだクリアする課題はあります。
現在のベンチャーと違い、歴史のある中小企業は、経営者が大株主であったり、会社の貸し付けに対し、代表者個人が連帯保証をしているケースがあります。
特に後者の場合、この個人保証を外すことが、以前より事業承継を妨げる足かせとなっているという批判が多くありました。
ただ、経営者保証に関するガイドラインの認知・普及が進み、
- 主債務者が中小企業(個人事業主も含む)であること
- 保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者(・個人事業主含む)等であること
- 主債務者である中小企業と保証人であるその経営者等が、弁済に誠実で、債権者の請求に応じて負債の状況を含む財産状況等を適切に開示していること
- 主債務者と保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
という4点を満たし、金融機関などとの調整がつけば、個人保証を外すなど、個人保証に関するあり方を柔軟にするよう、各金融機関に呼びかけています。
ただ一方で、事業承継時に、金融機関が前経営者と新経営者の両方の保証を求めるケースもあり、政府・経済産業省は問題視しており、8月7日、中小企業政策審議会第13回金融ワーキンググループの資料内P25で、
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2019/download/190807kihonmondai03.pdf
・切れ目のない事業承継支援策を実施してきた中で、経営者保証が後継者候補の確保のネック。
・ 事業承継時に後継者の経営者保証を可能な限り解除していくため、金融機関と中小企業者の双方の取組を促すため、総合的な対策として本年の未来投資戦略にも位置づけ。
と、経営者保証が事業承継に関して大きなネックであることを明記、専門家の支援、「事業承継時に後継者の経営者保証をできるだけ外す」方向性を令和元年秋以降により強く推進し、各金融機関にも経営者保証によらない融資のあり方を求める方向性を出しています。
また、資料P18では、経営者の個人保証そのものについて、政府系金融機関の対応として、
日本公庫→中小事業部門では、原則として経営者保証を取らない取扱いを実施。
国民事業(小規模事業者・個人事業)→•「経営者保証免除特例制度」や「マル経融資(小規模事業者経営改善資金)」といった経営者
保証を不要とする融資制度の取扱いを実施。
商工中金→平成30年11月から、TKC全国会と連携した経営者保証を不要とする「対話型当座貸越」制度の取扱いを開始
令和2年初から、「経営者保証ガイドライン」の徹底により、一定の条件を満たす先に対して「原則無保証化」に転換。
など、一定の条件を満たす先に対しては、経営者の個人保証を取らない融資制度も整備が進んでいます。
制度資料内P26では、
・事業承継を予定している企業のうち、一定の要件を満たす企業を対象として、経営者保証を非徴求とする新たな信
用保証制度を創設する。
・本制度では、事業承継の際に新規に実行する保証付き融資だけでなく、経営者保証を徴求している既存のプロ
パー融資を経営者保証を非徴求とする信用保証付き融資で借り換える場合にも利用可能な制度とする。
・これにより、民間金融機関のプロパー融資の経営者保証解除を促すとともに、事業承継を予定している企業の資金
繰りを支援する。
との概要は出しています。
ただし、その後の個別項目で、「無条件に事業承継時の経営者保証を外すわけではない」ということも示唆しているため、その点は留意した方がよいでしょう。
次回は、
- 事業経営者自身が、事業承継に関して後ろ向き
- 事業に関する借り入れが多額で、返済のために事業継続が必要で、事業の受け手・買い手もいない
- 一身専属の業態や許認可が必要な業態(医業・士業・不動産業・個人に対して許認可が出ている業種など)で、専門の資格者や、許認可の要件に該当する引き受け者・法人が見つからない
- 事業を売りたいが、買い手がおらず、事業面でも魅力に乏しい
- 事業が小規模で、現在の仕事で手一杯のため、事業承継にまで意識を向ける余裕がない
という部分に関して、個別に深掘りします。