前回記事
事業承継が困難という課題を分解すると?1→事業の継ぎ手・経営者保証の問題
で、事業承継を円滑にするための重荷として、「誰が継ぐか、経営者保証をどうするのか」という問題を取り上げました。
もうこれだけで、お腹いっぱいですよ・・・・
という印象もあると思いますが、まだまだ事業承継にかかる課題はあります。
今回は、事業承継を妨げる要素の、「事業経営者自身が、事業承継に関して後ろ向き」、加えて経営者交代に付随する、「周囲の事業承継への理解」という部分について、それぞれ触れていきたいと思います。
事業経営者自身が、事業承継に関して後ろ向き
これはあるあるだと思うのですが、経営者、特に自分が一代で一生懸命会社・事業を運営してきた人にとっては、
会社・仕事=人生
というところは多分にあるでしょう。
特に昔は、IT技術が発達していない分、労力が必要で一生懸命働くことが様々な意味で求められました。「働いていることが、空気のように当たり前になっている、働かないと落ち着かない」という年配の経営者も少なくないと思います。
人にはいろいろな考えがあり、仕事をすることで人生に張り合いが出る人も少なくありません。
また、外部と交流できる趣味などを持っていないと、仕事の一線から退き、外部との交流がなくなると、どうしても内にこもりがちになってしまいます。
また、一度仕事を退職、リタイヤした人でも、いざ仕事がなくなってみると暇になり、農業などに携わったり、何かの仕事を始めたり、再就職する人もいます。
前項目で紹介した岡野工業の岡野社長も、85歳まで社長として第一線で働いていました。
このように、今でもバリバリビジネスの最前線に立つ人に、
そろそろ事業承継のことを考えませんか?
と伝えても、
今事業承継をといわれても、仕事がない人生は考えられないし、生涯第一線でいたいんだが・・。
など、「まだ事業承継」という段階ではないでしょう、という反応をされる可能性はありますし、人によっては、「経営者を降ろされるんだ!」と感じ、反発するという可能性もあるでしょう。
子どもや、信頼でき今後の経営を安心して託せる人材がいれば、当面は「共同での代表取締役」、現経営者は会長職、新経営者が社長職を受け持ち、徐々に事業を引き継いでいくということも一つの策でしょう。
このように、事業承継は、「会社」という箱の問題だけでなく、「人」の問題も大きく、クリアする課題も多いのです。
- 経営者本人の仕事に対する意思
- 経営を引き継ぐ人材の存在の有無
それに加え、経営者の存在や技術が強みとなっていた会社では、
- 経営者の変更による、社内の秩序、新トップへの求心力をどう保つか
- 前回も述べた、経営者の技術の継承
は、事業承継を考える上で重要な要素になっていくでしょう。
経営者の交代による各方面の理解をいかに得るか
中小企業向けのM&Aのプラットフォーム会社・サイトも充実してきており、以前よりは、会社の売買に対する敷居は低くなっている感がありますが、特に地方の企業ほど、「外からの経営者(他社・他地区)」が入ってくることに対し敏感な傾向があります。
また、古参社員にとっては、
何十年もやってきたのに、突然外から経営者が入ってきて偉そうに・・・
と、不満の種になる可能性もあります。
経営サイドと従業員サイドのコミュニケーションがうまくいっていないと、不満を持った古参社員が、他の社員をごっそり引き連れて転職・独立する恐れも考えられます。
そのためにも、事業承継を考える上では、単なる経済的合理性だけでなく、従業員・取引事業者・他ステークスホルダーに対して、それぞれの当事者の気持ちに配慮し、特に従業員に対しては、処遇の維持など心理的安全を得られるよう配慮し、準備を進めていく必要が強いといえましょう。
また、地方の会社や社歴の長い会社でコストカットのため、長年の付き合いがある取引先の切り捨てや、社員の処遇のカットなどを行うと、地域中に話が知れ渡り、様々な意味で多方面から反発を買い、結局コストカット以上にマイナスが・・・、ということも起こりえます。
事業承継を考える上では、特に他地域から入っていく場合には、事業の社歴や地域特性も踏まえ、
「よそ者が来て好き放題やってるけど、もうしらんわ」
などと反発のないよう、できるだけM&Aの専門家、外の地域からであれば、現地の事情に精通した外部の専門家などとも相談し、様々な面で「いかにスムースに、周囲の人・環境に配慮してすすめるか」ということが重要になっていくでしょう。
次は、保証人の問題とも重複しますが、事業に関する借り入れが多額、事業所と住んでいるところが同じなど、非常にヘビーなケースについて触れてみてみたいと思います。