雇用調整助成金、いつまで制度続く?政府は出口戦略を計画(06/22)

現在行われている雇用保険の雇用調整助成金・休業支援金の措置に関して、政府が「いつ終了するか」という出口戦略を模索しています。

厚生労働省は2022年6月20日、今月17日までの支給決定額が2020年春の特例開始から累計で5兆8159億円に達したと発表しました。

現在、特例として上限額を1人当たり日額1万5000円、助成率を最大100%に引き上げるという、手厚い支援措置を行っています。

この施策で、失業率は3%前半にとどまりましたが、一方で、雇用保険全体の約6兆円に上る積立金はほぼなくなってしまいました。一般会計からの投入に加え、今年度の雇用保険料率を引き上げることにより、かろうじて維持している状況です。

政府は22年9月末まで施策を延長していますが、厚労省を始め、いつまでも続けるのは難しいという声があり、10月以降は正常化に向けた調整措置がとられる可能性が出てきています。

支給額が多くなるのと連動し、休業者は20年平均で256万人、21年平均も206万人と非常に多い状況で、中小企業団体もこの状況は好ましくないと転換を求め始めました。

日本商工会議所の関係者は、「雇用維持も重要だが、人手不足や成長産業への円滑な労働移動に向けた施策も推進してほしい」と話しており、新たな出口戦略の検討も必要でしょう。

(参照:時事通信 22年6月21日記事 雇調金特例「出口」模索 コロナ下、累計支給額5.8兆円 財源枯渇、転職の動き妨げも)

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  1. 雇用調整助成金特例、2021年12月までは変更なし!2022年3月までは段階的に縮小(11/25)
    1. 雇用調整助成金の12月以降の素案は?
  2. 雇用調整助成金等の延長・特例で変化する部分(2021年7月末のデータ)
  3. 業務改善助成金が8/1から変更、最大600万円の助成に!パソコンやタブレットの購入、複数回申請も可能に!
    1. 業務改善助成金の改正で、2021年8月1日から変わるポイント
    2. 業務改善助成金全体のポイント
    3. そもそも業務改善助成金とは
      1. 業務改善助成金の支給要件
  4. 9月まで延長が決定された雇用調整助成金・休業支援金の内容(2021年6/14のデータ、最新情報は最上部で更新)
    1. 雇用調整助成金
    2. 9月まで延長の休業支援金等
  5. 人材開発支援助成金・自社正社員対象の人材育成やリカレント教育(学び直し)に
  6. 「在籍型出向」で出向元・出向先両方に賃金等の費用最大90%を助成!(日額12,000円上限)+準備費用最大1人最大15万上乗せもある、産業雇用安定助成金開始
    1. 産業雇用安定助成金のポイントは?
    2. 産業雇用安定助成金で、いくら助成されるの?
    3. 産業雇用安定助成金はいつからの雇用が助成対象なの?
    4. 従来の雇用調整助成金を利用した出向と、新制度の産業雇用安定助成金による出向では、出向元・出向先双方の負担がどれくらい異なる?
    5. 産業雇用安定助成金申請の大まかな流れは?
    6. この他、産業雇用安定助成金の具体的な要綱で気になる部分
    7. 関連

雇用調整助成金特例、2021年12月までは変更なし!2022年3月までは段階的に縮小(11/25)

現在、財源となる雇用保険の積立が大きく減少し、最大で手当の全額(日額上限1万5000円)を支給する特例措置制度がどうなるかが懸念されていた雇用調整助成金特例ですが、2021年12月までは変更なく、同じ内容となることが公表されました。

そして、11月19日の政府経済対策閣議で、雇用調整助成金の具体的な素案が示されました。

雇用調整助成金の12月以降の素案は?

経済対策資料を元に、雇用調整助成金等、雇用支援に関する素案を整理します。

  • 雇用調整助成金の特例措置等は、特に業況が厳しい企業等に配慮しつつ、令和4年3月まで延長
  • 業況特例、地域特例について、3月末まで現行の日額上限・助成率の特例を継続
  • その他については、3月末まで現行の助成率の特例を継続しつつ、日額上限は段階的に見直す
  • 成長分野等へ労働者が円滑に移動できる環境整備等を図るため、需要減少で人手が過剰な企業から人手不足の企業への在籍型出向を助成金でしっかりと支援する
  • 職業訓練と再就職支援を組み合わせて、労働者のスキルアップや労働移動を図る事業の強化を行う
  • 当面の雇用調整助成金等の財源確保及び雇用保険財政の安定を図るため、雇用保険臨時特例法 に基づき、一般会計から労働保険特別会計雇用勘定に任意繰入を行う
  • 雇用調整助成金等の支給や雇用保険財政の安定のため多額の国庫負担を行っていることも踏まえ、労使の負担感も考慮しつつ、保険料率や雇用情勢及び雇用保険の財政運営状況に応じた国の責任の在り方を含め、令和4年度以降の雇用保険制度の安定的な財政運営の在り方を検討し、次期通常国会に法案を提出

以上のように雇用支援は行うが、段階的に減らす、そして雇用保険料率を見直す(→高くなる)方向での方向付けが想定されます。

2022年1月からは雇用調整助成金特例は変更となり、

  • 1日一人13,500円が、1月から11,000円、3月から9,000円に下げる
  • ただし、売上が急減した企業などは最大15,000円とする特例は2022年3月まで維持

背景には、21年度の雇用調整助成金の支給額が5日時点で4.8兆となり、既に21年度の雇用調整助成金の財源は使い切り、他の事業の資金を活用してまかなっているという状況です。

今後は政府としても、雇用調整助成金での支援より、労働移動での業態変化を促していく方向性が見受けられます。

 

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雇用調整助成金等の延長・特例で変化する部分(2021年7月末のデータ)

雇用調整助成金等の延長などで変わる部分を、箇条書きで整理します。(7月29日時点)

  • 最低賃金上昇への緩和策第一弾として位置づけ
  • 雇用保険の雇用調整助成金・休業支援金の措置は2021年12月まで延長
  • 今後それ以外の形での緩和策も検討
  • 時給を一定以上引き上げる中小企業に対しては、「従業員が休業する延べ日数が所定労働日の2.5%以上」という要件があるが、中小企業を対象にこの要件を10月から3ヶ月間なくす
  • 最低賃金を引き上げて設備投資を実施した企業への業務改善助成金も拡充、引き上げの従業員数が10人以上の場合、引き上げ額20円以上で80万円、90円以上で600万円を助成(具体的にはこの業務改善助成金8月1日改正の記事で記載)

今後も措置などが追加されていく可能性があり、その際はできるだけ新規記事で追記します。

雇用調整助成金について、8月の延長後、中小企業の助成金が変更されるという懸念がありましたが、都内の緊急事態宣言の発表を受け、9月まで同じ条件で引き継がれることになりました。

10月以降、制度に対する見直しが入るかは、今後の流れや雇用保険財政のバランスなどを踏まえ決まると思われます。

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業務改善助成金が8/1から変更、最大600万円の助成に!パソコンやタブレットの購入、複数回申請も可能に!

「業務改善助成金」という、中小企業や個人事業者向けの、生産性向上の取り組み(器具購入・システム導入)に対して助成を行う制度があります。

この制度に関し、2021年8月1日から改正が行われる事が、7月27日に発表されました。

今回の改正で、制度がどのように変わるのかを箇条書きで説明、その後に全体の制度を解説します。

業務改善助成金の改正で、2021年8月1日から変わるポイント

8月1日からの業務改善助成金改正で、変わるポイントは以下の通りです。

  • 労働場内の最低賃金引き上げに関して、45円コースが新設(1人45万円~10人以上120万円助成)
  • 10人以上コースが新設、コロナ禍で特に影響を受けている事業主(前年又は前々年比較で売上等▲30%減)、もしくは事業場内最低賃金900円未満の事業場が対象。助成額は、20円引き上げの80万円~90円引き上げの600万円まで)
  • 賃金引き上げ額が30円以上の場合は、これまで対象外だった乗車定員11人以上の自動車及び貨物自動車の購入、パソコン、スマートフォン、タブレットの端末及び周辺機器の新規導入も認められるように
  • 2021年度に既に業務改善助成金を受給していても、2度目の受給ができる。2021年10月に最低賃金制度の引き上げが行われるため、再度賃上げを行うケースを想定
  • 予算がなくなり次第終了

以上の通り、2021年10月の全国的な最低賃金の大幅な引き上げがあるため、雇用側が業務改善助成金を活用し業務効率化を図ることで、経営者側の賃金上昇に対する負担感を抑える目的があると言えます。

では、業務改善助成金の制度自体について説明します。

業務改善助成金全体のポイント

まず、業務改善助成金全体の目的・ポイントを箇条書きにしてみましょう。

  • 事業場内の最低賃金(アルバイト・パートの時給)を上昇(20円~90円)させる事業主に対し、業務改善に繋がる取り組みの費用に対し、従業員の人数・上昇幅に応じ20万円~600万円、必要経費の75%~90%を助成
  • 補助金と異なり、基本的に早く申請した方が優先
  • 予算が尽きたら終了
  • 国側としても賃金の底上げを図る意図
  • 業務改善に繋がる取り組みであれば、業種に応じた様々な改善策(事例集)が使える
  • 補助分に関しては後払いのため、最初は事業主側が全額手出しをする必要がある

そもそも業務改善助成金とは

前述の解説と重複するところもありますが、業務改善助成金の趣旨をまとめると、

  • 中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援
  • 事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図る(2つがセット!)
  • 生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成

つまり、「生産性を上げて業務を効率化したり儲けて、その分最低賃金の底上げを図ってね」、という制度です。

業務改善助成金の支給要件

業務改善助成金の支給を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 賃金引上計画を策定すること
    事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる(就業規則等に規定)
  2. 引上げ後の賃金額を支払うこと
  3. 生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと
    ( (1) 単なる経費削減のための経費、 (2) 職場環境を改善するための経費、 (3)通常の事業活動に伴う経費などは除く)
  4. 解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと

(その他の細かな事項もあり)

以上のポイントを踏まえ、最低賃金の引き上げに応じ、表の通りの補助金額が出ます。(図表引用:厚生労働省 業務改善助成金ページより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤で囲ってある部分、(新設)と書かれている部分は、2021年8月より特例的に変更される部分です。

おそらく、2021年度の特別措置になる可能性が高く、また予算が尽きたら締め切りです。

生産性向上が要件となっていると、「きちんと目標を達成しないと、支給がされないのではないか」と思う人もおられるかもしれませんが、そうではないのでご安心下さい。

要件を満たした場合は、補助率が10~15%上がる「ボーナス」がつくという形です。

とはいえ、できるだけ生産性向上目標を図れるように尽力する必要があります。

具体的な生産性向上の定義は、下記の通りです。

  • 生産性=付加価値/雇用保険被保険者数
  • 付加価値=営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課
  • 助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、
    ・その3年度前に比べて6%以上伸びていること または、
    ・その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていて、金融機関から一定の「事業性評価」を得ている、のどちらかの要件をクリア
  • 「事業性評価」==都道府県労働局が、助成金を申請する事業所の承諾を得た上で、事業の見立て(市場での成長性、競争優位性、事業特性及び経営資源・強み等)を与信取引等のある金融機関に照会し、その回答を参考にして、割増支給の判断を行う

この基本的な部分だけでも「うっ・・・」となる人が少なくないと思いますが、ポイントとして、

  • 生産性向上は絶対目標ではないから、未達だった時のリスク(助成金返還・罰則など)は考えなくて良い
  • 生産性向上を実現すると補助上乗せのボーナスがある
  • 生産性向上要件については、いつも依頼している税理士及び社会保険労務士に解説してもらうのが確実(手続は社会保険労務士のみが代行できる、自社の申請でも可)

ともかく、2021年10月の最低賃金改訂で、全国一律28円の最低賃金が引き上げられる方向です。

東京都の最大1,041円から、秋田・鳥取・島根・高知・佐賀・大分・沖縄の820円まで、引き上げ幅が大きく、地方でも700円台の求人はできなくなります。(その分をカバーできる業務改善は必須といえます。

この制度は活用しないともったいないと言えますので、ぜひ社会保険労務士、もしくは税理士経由で社会保険労務士に相談するなど、積極的に活用することをおすすめします。

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9月まで延長が決定された雇用調整助成金・休業支援金の内容(2021年6/14のデータ、最新情報は最上部で更新)

雇用調整助成金についてです。

雇用調整助成金

中小企業 原則 一人当たり最大80%~90% 最大13,500円

地域特例・業況特例 一人当たり最大80%~100% 最大15,000円

大企業 原則 一人当たり最大3分の2~75% 最大 13,500円

地域特例・業況特例 一人当たり最大80%~100% 最大15,000円

地域特例

  • 緊急事態措置区域、まん延防止等重点措置実施区域
  • 施設における営業時間の短縮等に協力する事業主

業況特例

  • 生産指標が最近3か月の月平均で前年又は前々年同期比30%以上減少の全国の事業主

9月まで延長の休業支援金等

中小企業 原則 80% 最大9,900円

地域特例 80% 最大11,000円

大企業  原則 80% 最大9,900円(シフト制労働者等のみ対象)

地域特例 80% 最大11,000円

地域特例:雇用調整助成金と同様

ちなみに、上限額は、緊急事態宣言やまん防の月途中解除があっても、1カ月単位で適用されます。

10月以降については、雇用情勢などを踏まえ検討、8月中に通知があるそうですが、どこまで延長があるかは不明です。(現在の情勢を見ると、軽微な見直しはあり得るとしても、通常の制度へ戻すなど、大きな見直しは考えにくいと思いますが・・・。10月以降についても、おそらく現在の状況で見直しを行うと、大きな議論を呼ぶ恐れがあると思われますので。)

参照:9月以降の雇用調整助成金の特例措置等について

 

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人材開発支援助成金・自社正社員対象の人材育成やリカレント教育(学び直し)に

人材育成に関しては、雇用保険を元にした、雇われる側向けの給付金もありますが、「会社が人材を育成する際に支給される「人材開発支援助成金」という制度が存在します。

まず、制度自体が非常に細かいので、顧問社会保険労務士の先生に、詳細を確認、依頼していただくことがベストであることを前提とし、この記事では、ごく最小限の概要にとどめます。

まず、制度の大まかな内容を、パンフレットから引用すると、

 

雇用保険被保険者(有期契約労働者などを除く)に対して職務に関連した専門的な知識および技能の習得を目的として、計画に沿って訓練を実施した場合に訓練中の賃金と訓練にかかった経費の一部を助成するものです。
特定訓練コースは、訓練効果が高い訓練や実施方法などの場合に、一般訓練コースよりも高い助成率・額で支援しています。

となっています。

中小企業の場合に限定すると、

OFFーJT→通常:1人1時間当たり760円

     生産性の向上が認められる場合:960円

 

OJT→通常:1人1時間当たり665円

   生産性の向上が認められる場合840円

それぞれ上限1,200時間(一部は1,600時間)

さらに経費助成として、

対象経費の45%(生産性の向上に資する場合は60%)の支援があります。

(訓練の内容やコース・時間によって、7万円~50万円の上限あり

対象となる企業は、下記の通り。

  • 雇用保険適用事業所の事業主であること
  • 職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画および年間職業能力開
    発計画を策定し、従業員に周知している事業主であること
  • 訓練期間中の訓練受講者に対する賃金を適正に支払っている事業主であること
  • 支給申請までに訓練にかかった経費をすべて負担している事業主であること
  • 次の書類を整備している事業主であること
    ・訓練受講者の職業訓練の実施状況(訓練受講者、OJT指導員および事業内
    Off-JT講師の訓練期間中の出勤状況・出退勤時刻)を明らかにする書類
    ・職業訓練に要する費用の負担状況を明らかにする書類
    ・訓練受講者に対する賃金の支払い状況を明らかにする書類
  • 訓練計画届提出日の前日の6か月前から支給申請提出日までの間に事業主都合により雇用保険被保険者を離職させた事業主でないこと
  • 労働局が行う審査や実地調査に協力する事業主であること
  • 不正受給を行ったことによる不支給措置期間にある事業主でないこと

以上の条件に当てはまる事が必要です。

支給対象労働者の条件は、

  • 訓練実施期間中において、申請事業主に雇用される雇用保険被保険者(有期契約労働者、短時間労働者および派遣労働者を除く)であること
  • 対象となる実訓練時間のうち8割以上受講した者であること(雇用型訓練の場合、OFF-JTおよびOJTがそれぞれ8割以上)
  • 訓練計画届提出時に添付する「訓練別の対象者一覧」(訓練様式第4号)で届け出られている者であることなど

この時点で、多くの方は「ややこしい・・・」とお感じになるかと思います。

このように、基本的な労働関係書類や、労務関係の確保が出来ていることは前提となります。

実際の制度詳細や、具体的な教育計画などは、下記のページの厚生労働省のリンクの資料から確認できますが、自社の人事に精通した人材か、社会保険労務士に依頼するなど、手続に詳しいプロにまかせることが確実といえますので、特に中小企業の場合は、社会保険労務士に相談する事をお勧めします。

(参考:厚生労働省:人材開発助成金制度

 

オンラインプログラミングスクールを選ぶ5つのポイントとおすすめスクール5選

 

「在籍型出向」で出向元・出向先両方に賃金等の費用最大90%を助成!(日額12,000円上限)+準備費用最大1人最大15万上乗せもある、産業雇用安定助成金開始

産業安定雇用助成金という、事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向に対し補助を行う制度があります。

概要を解説します。

なお、最新の情報は上の部分に示しております。

産業雇用安定助成金のポイントは?

 

  • 事業活動を縮小している会社の雇用維持が目的だが、2021年型宇
  • 雇用維持を行うために、他社に出向させた後は、元の会社に戻れるようにするのが大前提
  • 親会社・子会社・グループ会社など、いわば「身内」は対象外
  • 出向先で、別の人を出向させたり離職させるなどの「玉突き出向」は不可
  • 出向先と出向元で、人を交換するような出向を行ってはだめ
  • 期間は1ヶ月以上6ヶ月以下(ただ、後ほどのべるが、第一期・第二期と区切って、実質的に1年分までになるケースもあるかも?詳細は後ほど)
  • 他にも要件はあり、今後追加される可能性

 

など、あくまで現在仕事が喪失している産業(飲食・交通・サービス他新型コロナウイルスの影響を受ける業種)産業から今人が足りない産業に、人を出向させる試みについて、

  • これまでは出向元だけに助成金を支給していたけど、これからは出向先にも助成金を支給する

 

ことで、出向先にも受け入れるメリットを与えるのが目的です。

産業雇用安定助成金で、いくら助成されるの?

産業雇用安定助成金では、下記の助成が行われます。

教育訓練や労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部を下記の割合で「出向運営経費」として助成

  • 業種問わず1日12,000円が上限
  • 出向元が労働者の解雇を行っていない場合:中小企業は10分の9、それ以外では4分の3を助成
  • 出向元が労働者の解雇を行っている場合:中小企業は5分の4、それ以外では3分の2

 

就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるために用意する機器や備品などの出向に要する初期経費の一部などを下記の通り助成

  • 助成額:出向元:出向先両方に1人当たり10万円を定額で助成
  • 出向元事業主が、雇用過剰業種の企業や生産性指標要件が一定程度悪化した企業である場合、
    出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合、1人当たり5万円を定額で助成、つまり一人15万円の助成

 

産業雇用安定助成金はいつからの雇用が助成対象なの?

 

  • 出向開始日が令和3年1月1日以降出向開始日以降の出向運営経費および出向初期経費が助成対象
  • 出向開始日が令和3年1月1日より前の場合、1月以降の出向運営経費のみ助成対象

そのため、既に出向を行っている企業の場合は、出向の初期経費は対象外となる方向です。

 

従来の雇用調整助成金を利用した出向と、新制度の産業雇用安定助成金による出向では、出向元・出向先双方の負担がどれくらい異なる?

 

これまでの、雇用調整助成金を活用した出向の場合で、厚生労働省のパンフレット通り、出向運営経費で、出向元が1日3,600円を負担、出向先が1日8,400円(1日計11,000円)を負担していたと仮定します。また、前提として、出向元・出向先とも中小企業・個人事業主で、出向元が解雇を行わない、つまり最大で支給されるケースについて文章にします。

 

雇用調整助成金による場合の出向元事業主の実質負担:1,200円(2,400円が補助)

雇用調整助成金による場合の、出向先事業主の実質負担:8,400円(補助なし)

 

ということで、受け入れる事業主には、直接メリットがないよね・・・、という状態でした。

 

これが、産業雇用安定助成金だと、

出向元の実質負担(賃金負担):本来1日3,600円を支給する場合:10分の9の3,240円が助成され、実質負担は10分1の360円

出向先の実質負担(賃金負担・経費負担):出向先賃金負担を 5,400円、教育訓練および労務管理に
関する調整経費など を3,000円とした場合、10分の9の7,560円が助成され、実質負担は10分の1、1日840円

さらに、出向初期経費として、初回支給時に出向元・先双方に各10万円(一定の要件を満たす場合は5万円加算)が上乗せ、という、非常に出向元・出向先にとってメリットのある施策です。

出向が、現在の雇用調整助成金(出向)による出向元への助成措置にも該当する場合は、雇用調整助成金・産業雇用安定助成金のいずれか一方のみの助成金が申請可能で、当然ながら二重取りはできません。

 

パンフレットにも例がいろいろありますが、例えば観光業界の観光バスの会社の場合、現在は観光バスが運行しにくい状況にあります。

 

一方で、運送業界は、慢性的に人手不足。精密部品を運送する会社など、丁寧な配送が要される会社では、大型が運転でき、丁寧な運転ができるバス会社の運転手なら、歓迎できます。

 

他にも、リゾートホテルの職員を、食肉加工・販売・飲食事業者が運営するレストランに出向させるなど、「もともとの会社で培ったスキルが、出向先の会社でも活かせそう」という場合など、様々な「人出が一時的に余剰になってしまった産業→慢性的に人手不足の産業や、これから成長をはかる新興産業」への人材の出向により、「労働者の適材適所での活用」が容易になります。

先ほどの、新しい産業雇用安定助成金の条件で、例えば「ホテル会社の調理部門→高級食材の宅配会社の調理部門への出向」という形で、8名を労働日数140日間(最長期間の6ヶ月、1ヶ月23日前後勤務したと仮定)出向させたとします。先ほどの助成金の計算条件に加え、「出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合による上乗せ1人5万円」が支給される想定で計算すると、

出向元は、まず初期経費の15万円×8人で120万円の助成

さらに、140日分の出向元負担のうち9割、3,240円×140日×8人=3628,800円の助成

計、4,828,800円が出向元に助成される計算になります。

おまけに、受け入れる出向先は、初期経費の15万円×8人で120万円の助成

140日分の出向先負担のうち9割、7,560円×140日×8人=8,467,200円の助成

計、9,667,200円と、1,000万円に近い額が助成されます。

このように、出向元・出向先双方にとって、大きな負担軽減・助成が期待できる制度が産業雇用安定助成金です。

産業雇用安定助成金申請の大まかな流れは?

産業雇用安定助成金申請の流れの要点を並べます。

  • まず出向予定者の同意を得る
  • 出向元と出向先の事業者で契約
  • 労働組合等との協定締結
  • 出向計画届提出や要件の確認(開始日の2週間前までに都道府県労働局またはハローワークへ提出、手続は出向元が行う
  • 出向の実施
  • 支給申請書に基づき助成金が支給(つまり、後払い

また、公益財団法人 産業雇用安定センター(各都道府県の県庁所在地自に事務所あり)では、出向元・出向先企業のマッチングを無料で行っていますので、余剰人材が出ているが雇用は維持したい、あるいは人手不足で受け入れ人材を探しているという場合には、ぜひ相談してみると良いでしょう。

この他、産業雇用安定助成金の具体的な要綱で気になる部分

ここまでは、パンフレットのPDFを元に解説してきましたが、補助金・助成金には、具体的な部分を定めた「要綱」も存在します。

流し読みする中で、気になる部分をピックアップします。

本助成金(出向)の支給を受けようとする事業主は、当該出向労働者の最初の出向先事業
所における出向期間を出向開始の日から6か月ごとに区分して、それぞれ第1期及び第2期
とした各期(当該期の途中で出向期間が満了する場合は、当該期の初日からその出向期間が
満了する日までの期間を当該期とする。なお、当該出向労働者の出向先事業所における出向
期間が6か月を超えて7か月以下である場合は、第1期と第2期を合わせて第1期として一
の支給対象期とすることができる。

パンフレットでは、産業雇用安定助成金の期間は1ヶ月以上6ヶ月以下ですよ、としていますが、上記の通り、第一期・第二期と区切ることで、最長1年にわたり助成金の対象になる可能性も「想定」できます。

ここのところが、同じ出向先に適用されるのか、されないのか、他どういう意味を持つのかは、ざっと見ではわかりませんが、気になります。

返還
イ 管轄労働局長は、助成金の支給を受けた事業主が次の(イ)から(ハ)のいずれかに該当する場
合には、「雇用調整助成金支給決定取消通知書」(様式第11号)により、当該事業主に対
して、(イ)から(ハ)に掲げる額に係る支給決定を取り消す旨の通知を行うものとする。また、
第1共通要領 0703 に定める不支給措置期間の通知は、「雇用調整助成金不支給措置期間通知
書」(様式第12号)により通知するものとする。
(イ) 偽りその他不正の行為によって助成金の支給を受けた場合 支給した助成金の全部又は
一部(不正発生日を含む判定基礎期間(出向の場合は支給対象期)以降に支給した額)及び
必要に応じて当該事業主以外の事業主に支給した助成金の全部又は一部
(ロ) 助成金の支給すべき額を超えて助成金の支給を受けた場合 当該支給すべき額を超えて
支払われた部分の額
(ハ) 労働基準法第26条の規定に違反して支払った手当について助成金の支給を受けた場合
助成金のうち当該違反して支払った手当に係る部分の額
ロ 助成金の支給を受けた事業主が不正受給を行った場合、上記イ(イ)の返還額に加え、当該返
還額の2割に相当する額を支払う義務を負う。

 

0802 連帯債務
イ 連帯債務
社会保険労務士、代理人又は訓練を行う者が、不正受給に関与していた場合は、申請事業主等
と連帯して、不正受給により返還を求めた額に加え、不正受給の日の翌日から納付の日まで、年
5分の割合で算定した延滞金及び当該返還額の2割に相当する額の合計額を支払う義務を負う。
ロ 連帯債務の承諾
(イ) 社会保険労務士又は代理人は、「支給要件確認申立書」(様式第1号)にて、不正受給に
関与していた場合は、不正受給額の返還等に対して申請事業主等と連帯して債務を負うこと
を承諾する旨について、記名押印又は署名する。
(ロ) 訓練を行う者の連帯債務の承諾については、「第2 各助成金別要領」にて別途定める。

持続化給付金でも散々問題になりましたが、悪質な不正の場合は1.2倍+アルファの返還になり、また他の助成金と同様、社会保険労務士等代理人等関係者が不正に関与した場合は、連帯で返す責任を負うことになります。(このリスクがあるので、社会保険労務士も、助成金申請に及び腰になるケースが少なくないと聞きます・・・。)

とはいえ、適正に申請すれば、大きな負担軽減が望める助成金であることに変わりはありません。

このように、出向元・出向先にとって、大きな負担軽減が期待できる産業雇用安定助成金、早急な開始が望まれます。