「地域みらい留学」に考える、教育+隠れたニーズ
今回は、経営から少し離れた記事です。
地方留学というユニークな概念
東洋経済Onlineで興味深い記事を読みました。
この記事を読み、正直驚きました。
ある学生の方が、都市部から地方(例えば島根)の高校へ進学、しかも、都内有名私立高と天秤にかけた上で、島根の公立高校を選んだということ。
尊敬する同業者の子息が島根の県立高校に進学した。都内の帰国子女も多い私立高と天秤にかけ選択したというが、偏差値や進学という観点で言えば明らかに都内私立高が有利だ。地方での寮生活は出費もかさむだろうにあえて島根。そこに何があるのだろう?と思った。
年間約350人――。決して多い数字ではないが、友人の息子のように親元を離れて地方の公立高校に留学する子どもたちがおり、その数は年々増えている。
当サイトは地方発のメディアのため、「地方を選んでくれるのは嬉しいけれども、なぜ?どのような要因があるのだろう」など、意外な気持ちを持ち、記事に目を通していました。
きっかけは、2009年の隠岐島前高校の「島留学」というプロジェクトとのことです。
海士町では2009年に「島前高校魅力化プロジェクト」を立ち上げ、課題解決型プロジェクト学習など特徴的なカリキュラムを開発すると同時に、地域総がかりで子どもの学習を支援する体制を作りあげた。
このプロジェクトは、驚くべき数字をたたき出した。4年後の入学者数は倍以上の59人になり、この年には僻地の高校としては異例の、定員40人から80人へ学級増が行われるほどに。現在では新入生の4割強が島外からの生徒で、それに刺激を受け、島内の中学校からの入学志願率も増加している。子どもの地域外流出に歯止めがかかったのである。
この成功に影響され、島根県では2014年度から県外から県内の公立高校に生徒を呼び込む「しまね留学」をスタート。2019年には26都道府県から195人が留学している。さらに2017年からは島前高校の魅力化を推進してきた岩本悠氏などが「一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げて全国に活動を拡大。「地域みらい留学」の名の下に現在では26都道府県55校が登録、地域外からの生徒受け入れを行っている。
このように、10年以上前からの活動の下地があって、現在のようにメディアにも取り上げられるようになっているのです。
もちろん、文中でも触れていますが、地方の高校のブランド力、偏差値は、けして高いわけでありません。
なぜ「地域みらい留学」がここまで伸びたのか?隠れたニーズも含め考える
そんな中、なぜあえて地方の高校を選択する人が徐々に増え始めているのかというと、
- 先生一人あたりの担当生徒数が都市部に比べ少なく、子どもの教育に目が行き届きやすい
- 地域の大人と触れ合う機会が多い
など、人口が少ないことがかえってメリットになっているとも見受けられます。
確かに、地方における実感として、生徒数と教師のバランスや、地域とのふれあいという点では、都会にはない良さがあるというのは、住んでいる者としてもうなずけるところです。
また、
- 海外留学よりコストが低いケースも多い
- 地方で安全性が高い
- 親としても国内なので子どもの様子がうかがいやすいし、様子を見に行きやすい
- 都市部の教育環境になじみにくい子どもがのびのびと育てる
- 子どもが3年間留学するため、異なる価値観を子どもに学ばせることができる
- 子どもと物理的に離れるからこそ、親子共々依存関係ではなく、自立の促しができる
など、国内留学ならではのメリットも大きいでしょう。
もちろん、このような現象が起こる下地として、島前高校のプロジェクトに関わった岩本悠さんはじめ、関わった方の地道な努力がとても大きいと言えましょう。
また、上記の「地域・教育魅力化プラットフォーム」では、
持続可能な社会づくりを牽引する、「課題解決先進国NIPPON」
という目指す未来像を掲げています。
確かに地方は、島根を始め、高齢化・過疎化・若年層の現象・流出など、複数の課題を抱えています。
ただ、そこを「課題解決に関する先進国」と定義し、教育の中で、課題を解決するという力を養ったり、また、「地域みらい留学」を通し、ともすれば同質化しがちな地方の学校に、都市部の学生が来ることで、違う価値観、文化など多様性に触れることで、地方の学生にもよい刺激を及ぼすなど、非常に素晴らしい試みかつ、一つの新たな教育における選択肢の提示だと思います。
また、当メディアの担当者自身としても、地方は今後日本、世界の先進国が直面する「課題」を先取りする、「課題の先進地域」であることは強く感じています。
教育・人口・福祉・インフラ整備・他地域との交流・外貨(国内も含む)を獲得できる産業の振興など、課題がたくさんあり、もしその課題を解決できる事例があれば、他の地域でも応用していくことができるでしょう。
いずれにせよ、教育だけでなく、社会課題の解決の糸口という観点でも、ぜひこのような取り組みが、より認知されてほしいと感じます。