以前、事業協同組合 各地で設立の動きが進むかというコンテンツで、複数の事業者による事業協同組合を設立することにより、繁忙期・閑散期に応じた人材シェアリングができる仕組みがスタートすると書きました。
1月18日には、NHK・日経新聞(働き方innovationという連載記事の中で言及)などで、島根県海士町にて、事業協同組合の設立が報道、もしくは記事で言及されました。
島根県海士町の事業協同組合のケースでは、既に2020年11月より海士町複業協同組合を設立しており、2020年12月8日に令和2年度特定地域づくり事業推進交付金交付決定、2021年1月から事業協同組合の本格的な運用フェーズに入りました。
また、秋田県の東成瀬村でも、2020年12月25日、東成瀬村地域づくり事業協同組合に対し交付金の助成が決定されるなど、全国の人口や働き手の問題と向き合う地域が、次々と特定地域づくり事業の運営に手を挙げ始めています。
2021年1月1日時点では、交付金の交付決定が出たのは2地域ですがが、今後中山間地域や離島・過疎地域(ただし、適応対象は過疎地域に限定されるわけではありません)など、地域人口の急減に直面している地域を中心に、全国的に広がっていくことが想定されます。
特定地域づくり事業協同組合の実際の運用が始まる
島根県海士町では、既に、1月12日から、東京より派遣された20代の男性が、水産業者に派遣されるなど動きが出ています。
特定地域づくり事業協同組合の特徴としては、
- 漁業や飲食業など複数の業種を組み合わせて、年間を通じ人材が業務に携われるようにする
- 事業者サイドとしては、繁忙期・閑散期の差が激しい業種であっても、忙しい時期に人材を活用するなど、労働力のシェアができる
- 働く側も、複数の職場で業務に従事できるため、幅広い職務経験が積めることに加え、地域への定着、一社での単独雇用より安定した雇用が期待できる
- 組合運営費について、2分の1の市町村助成がある
- 通常は基準の厳しい労働者派遣事業を、「許可ではなく届出で実施できる」(許可の場合は、資本金要件など条件が厳しい)
など、労使双方にメリットがあるといえます。
島根県では、浜田市で協同組合が認定され、安来市・奥出雲町・飯南町・津和野町など各地で認定を受けることに向けた動き・手続が進んでいます。
特定地域づくり事業協同組合に関する様々な疑問に対する回答も具体化
特定地域づくり事業協同組合に関しては、以前の記事でも触れましたが、昨年作成時の9月に比べ、様々な事項が具体的になってきました。公式Q&A等の内容も踏まえ、特定地域づくり事業協同組合を検討する上で、よくある疑問に関して整理します。
特定地域づくり事業協同組合にすると、どういうメリットがあるの?
端的にいうと、
- 事業協同組合の運営に関し、市町村(国の間接補助も含め)から2分の1の補助が出る
- 基準が厳しい派遣業の許可を取得しなくても、届出を行えば派遣ができる(ただし、届出が無条件で受理されるわけではなく、特定地域づくり事業協同組合の財産的基礎部分で、「事業の運営が困難になった場合であっても、一定期間派遣労働者に対する賃金支払いができるか、その他賃金・労働者数等の要素を踏まえ都道府県知事が判断」ということは注意)
- 事業協同組合で、実際に現場に従事する人物の資質を理解できるため、適材適所の配置がしやすくなる(事業協同組合に担い手として参画する人材の増加が前提)
- 制度としてはまだ新しいためニュースバリューがあり、注目・人を集めやすい
などのメリットがあります。
特定地域づくり事業協同組合が設立できる地域は?
特定地域づくり事業協同組合は、どこの地域でも設立できるというわけではありません。
「地域人口の急減に直面している地域、かつ一定の地域において地域社会の維持が著しく困難となるおそれが生じる程度にまで人口が急激に減少した状況」で、かつ「さまざまな観点から地域の実情を汲みとり、都道府県知事が適切と認める地域」ということです。
過疎地域ではない→設立ができないというわけではありません。
現在の状況では労働力確保や産業維持その他、様々な意味で厳しい状況にある地域であることが前提となり、最終的には前述の通り都道府県知事が判断します。
特定地域づくり事業協同組合の人材は地区外からの通勤者や高齢者・外国人もOKなのか
結論から言うと、地区内に居住している者、地区外から通勤する者、高齢者、外国人のいずれも組合の派遣職員になれます。ただし、外国人の場合は下記の条件に合致する必要があります。
- 在留資格で制限を受ける
- 「技能実習」区分に該当する外国人は、派遣労働者として派遣先業務に従事することはできない
- 「特定技能」に該当する者については、原則として直接雇用
- 「特定技能」で例外的に派遣労働者として派遣先業務に従事することが認められるのは、農業分野及び漁業分野において一定の要件を満たす場合に限られる
以上の制限があります。
また、地区外の居住者募集に当たっては、同じような人口減少地域から人を引っ張ってくるのではなく、「当該人口急減地区外の人材が採用されるよう、移住や定住支援等必要な各種施策を講ずること」も重要です。
特定地域づくり事業協同組合は何社集まれば設立できる?
特定地域づくり事業協同組合の設立は、発起人が4社以上必要とされており、一社単独での設立はできません。また、法人格(株式会社・合同会社・第三セクター事業者)を持つ事業者に加え、社会福祉法人、法人格を持たない個人事業主も対象となります(なお、当初は対象にならないと書いておりましたが、手引きではなく総務省のパンフレットには、社会福祉法人や農家などの個人事業主も対象になります。なお、市町村が財政支援を行う場合は、補助金か寄付金で)。
特定地域づくり事業協同組合は同じ地区で設立できる?
法令上は、同じ地区での設立もOKとはなっています。
しかし、
同じ地区に複数の特定地域づくり事業協同組合を設立することの必要性、合理性等を十分確認
することが要されますので、「なぜ同じ地域に複数の事業協同組合が必要なのか」、という理由付けを行うことが必要になります。
以上の通り、具体的な動きが各地で始まる地域づくり事業協同組合ですが、ぜひ良い形での運用がなされ、企業・組合・そして従事者三方にとって良い結果を与える取り組みとなることを、今後期待したいです。