さまざまなところで話題になっているように、ドラえもんが開始50周年記念ということで、過去の学年別学習誌に掲載された初回巻を集めた0巻が発売、そしてAmazonなどのネット書店だけでなく、リアル書店でも多くの店で売り切れになっています。
ドラえもん0巻が発売即4刷、累計25万部
このように、発売前から重版、しかも4刷、25万部と、今の時代としては異例のヒットでしょう。
そして、Kindleなど電子書籍でも買えるのに、あえて多くの人が、紙の書籍を購入しています。
担当者も普段は電子書籍派ですが、この書籍は、「単行本という形で購入したい」と思い、紙で購入しました。
ドラえもんは日本の全世代に刺さる数少ないIP(intellectual property)・知的財産
担当者も、地元の穴場の書店で、4冊だけ残っていた中の1冊を購入し、夜に子供たちに読み聞かせていました。1969年・1970年の「ドラえもん」は、2019年の子供・大人にとっても楽しめるものでした。
約50年前の作品であるにも関わらず、「ドラえもん」というフックがあるうえに、内容自体もベタなスラップスティック・コメディ(ドタバタ劇)であるため、例えば同年代の、「8時だよ!全員集合」のように、面白くあらゆる世代に刺さるな、という印象を受けました。
たとえば、仮に70代であったとしても、子育てをしていれば、子供にドラえもんを読ませていたかもしれないし、1973年の日テレ版ドラえもんをリアルタイムで見ていたかもしれない。
それ以下の世代であれば、小学館の学習雑誌やコロコロコミックなどを通して、また、テレ朝版のドラえもんを通して、ドラえもんも見ていたかもしれません。
現在、世代による様々な興味の分断が進んでいます。
若年層はスマホネイティブで、SNSをみたり、Amazon PrimeやNetflix、Abema TVなどなど様々なメディアを楽しむ。
一方中高年層も、別の意味で多様化。
様々なメディアに適応できる人もいるし、テレビの地上波と新聞が情報源の人も、あるいは地上波に嫌気がさし、BS、CSなどの落ち着いた、大衆受けはしないけれども、知的好奇心がある番組を見る人も。
おおむね全世代を共通して話題になる紅白やスポーツ(今年ならラグビーワールドカップ、そして毎年の箱根駅伝)など、共通の話題となり数十パーセントの高視聴率、つまり何千万人が見るというものは大きく減っています。
そんな中、子供から中高年も含めた世代間で共通して通じる日本発のコンテンツは、「ドラえもん、サザエさん(1969年テレビ放送開始)、アンパンマン(1970年代絵本発行)」など限られるでしょう。
ドラえもんのキャラ変遷
また、ドラえもんが今と違い、ずんぐりむっくりのダメキャラとして描かれています。
展開も純粋なギャグマンガですので、のび太君だけでなくドラえもんも『みらいのくにからきたできそこないのダメロボット』という扱い。
また、各初回の巻頭のあおり文句も、時代を感じさせる文言です。
今のドラえもんと、過去のドラえもんで、これだけ変わったんだと比較をしながら見てみるのもおもしろいかもしれません。
そして、「細かな言い回し・表現に対し、おおらかだった時代」も感じます。
多分今なら子供向けの書籍ではNGであろう言葉・表現が出てきますが、子供にはストレートな表現の方がやはり響きますね。
たとえば、ある第一話の「今ならNGでなるであろう巻頭表現」で、子供たちは、「この表現がなにか」というのを知らないわけです。
そこで、昔はこういう状況におかれた人がいてね・・・、過去の時代背景、そして現在の状況などを話すことで、やっと意味が伝わるわけです。
(なお、一部レビューに、本当に世代を問わずNGな表現はカットされていたと詳しい方が書かれております。これが本当であれば、そこも原著の表現を尊重してほしかったとは思います。そして、問題のある表現であれば、親は「昔はこういう表現もあったれども、今は時代背景・国際化・価値観の多様化も含め、こういう表現は問題なんだよ、とフォローを入れますので・・・。単なる言葉狩り・クレーマー対策のような文章のカットがあったのであれば、それはしないでほしかったし、原著の表現を尊重してほしかったと思います)
言葉遣い以外にも、電話に線がある、テレビがでかい、ダルマストーブなど今の子供にはわからない道具・表現も多く出てきます。
また、現代ではある程度実現してしまったひみつ道具も出てきます。(今ならルンバ・ブラーバ・クックフォーミー・ホットクックなど)
そのような時代間のギャップも含めて、親が解説しながら読むことで、子供でも楽しんで読んでくれます。(昨日の寝かしつけの時は、全学年分読み聞かせました・・・)
ドラえもん0巻の感想
子供以外はどの世代も「思い出補正」というのがありますが、それを踏まえても、非常に新鮮に読める内容でした。
また、元原稿の復元作業もあったのかも、と推測していますが、よくこれだけきれいな状態で、過去の作品を復元できたな、とも感じます。
ドラえもん好きな子供がいる親御さんにもですが、昔ドラえもんをリアルタイムで読んでいた、あるいは見ていた世代やその親世代の方にも、「時代性も含め復元しつつ、単純に作品として読んで面白いと感じられるもの」としておすすめです。
ドラえもん0巻が、ネット書店でもリアル書店でもほぼ売り切れという現状
最近、物が売り切れ買えないということが非常に少なくなりました。
以前はiPhone・ドラクエ・ファミコン・プレイステーション、初期のNintendo Switchなど、ハードウェアや、カセット・ROMなど用いたソフトウェアなどは売り切れることが多くなりましたが、現在は様々なソフトウェア・サービスがwebを通し、物理的でない、デジタルデータの形で提供されるので、「物が売り切れて買えない」ということは、意外と少なくなったように感じます。
今だと、すぐ買えないのはAppleのAirpods PROくらいでしょう。
しかしドラえもん0巻は、電子書籍や電子コミックが普及し、Kindleでも買えるにもかかわらず、紙の書籍が売り切れる、発売前から重版・大増刷と、大きな売れ行きを示しています。
さらにこの勢いを借り、旧版のコミックスの増刷など、テレビ放送自体は土曜の5時という、非常に大人も子供もリアルタイムでは見にくい時間帯に飛ばされたにもかかわらず(みんなタイムシフトで見ていると思いますが)、やはりドラえもん人気は根強いと思わされる次第です。
税込6万6千円の愛蔵版・100年ドラえもん45巻セット
そして経済力のある大人に対する商品として、ハードカバーの装丁・天金・箔押し仕様により、45巻を復元したセットも2020年2月に予約、9月に発売されることが発表されています。
“100年後の未来に届ける”という意味を込め「100年ドラえもん」と名付けられた同アイテムは、ハードカバーの愛蔵版として刊行。天金・箔押し仕様にて用意され、本文は原画を高画質スキャンした最新版のデータが使用される。
ということで、完全に愛蔵版・保存版という形になるようで、詳細が気になります。
(これこそ、各国語版に翻訳して、それぞれの国で提供するといいかと・・・)
このように、ドラえもんに限らず日本のIPに関するコンテンツを掘り起こしたり、また新たな角度で提供、また国内だけでなく海外に発信するという試みは、ぜひ進めてほしいと感じます。