経済産業省とBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の「日本の中長期ビジョンの検討に関する調査」から、今後の世界・日本の方向と取り組むべき未来のビジネスを探る
今回、平成28年度に作成された、経産省とBCGの「日本の中長期ビジョンの検討に関する調査」をもとに、今後顕在化する問題は何か?「今後どういう領域にビジネスの入り口、ビジネスの種はあるのか?」という観点で、資料を見ていきたいと思います。
なお、当資料は、twitterにてPuANDAさんが言及されていたのをきっかけに知ることができました。更に、源流として廣川航さんが2018年3月におすすめされておりました。お二人にこの場をお借りして御礼を申し上げます。
日本の中長期ビジョンの検討に関する調査
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000280.pdf
まず着目すべきは、これが平成28年度(2017年3月)、つまり2年半近くに公開された資料であるということです。
資料に目を通すと、概ね社会はこの資料が指し示す方向に現在進んでいると思われる方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
PDFで431ページとかなりのボリュームですので、経営者やビジネスパーソン目線で、重要と感じた部分を主体にまとめていきます。
これから世界で、日本で顕在化する問題はなにか?
問題のあるところに、解決策としてのビジネスが発生します。
そのため、今後起こるであろうと思われる問題について、整理しておくことが重要となります。
今回の経産省の資料(P16)では、22のテーマを定義し、P18では、発生時のインパクト・発生確率等を、発生時のインパクトと発生確率という観点から3×3のマトリクスで分けています。
資料を直接貼り付けることは控え、ぜひパソコンかタブレットで最初に記述したリンクをご覧いただければと存じますが、注目すべきは、
- 今後ほぼ確実に発生するトレンド
- 国のあり方に大きな変化を与えるトレンド
この2つの軸で、発生可能性が大、中となっている部分です。
当該資料から引用します。
今後ほぼ確実に発生するトレンド
国のあり方に大きな変化(大)
- サイバーセキュリティの重要度の高まり
- IoTの普及を通じた個人情報の把握とコントロールの現実化
国のあり方に一定の変化(中)
- 少子高齢化に伴う国力低下
- 第4次産業革命の実現による産業構造の変化
- ネット、ITの進化に伴うメディアや経済活動の革命的変化
国のあり方には大きく影響せず(小)
- 都市/地方の二極化拡大に伴う新たな問題の発生
- 女性の社会進出加速化
特に、「今後ほぼ確実に発生するトレンド」は、この資料が作成され、2年近くの期間で既に顕在化しつつある部分もあります。
今後この傾向は当然に強まっていくと推測します。
更に、発生時のインパクトが大きい、
「国のあり方に大きな変化を与える部分」では、
ほぼ確実に発生(大)
- サイバーセキュリティの重要度の高まり
- IoTの普及を通じた個人情報の把握とコントロールの現実化
一定確率で発生(中)
- グローバル化の進展
- 大国でのナショナリズム台頭
発生そのものが不確実(小)
- 日本の (実質) 財政破綻に伴う混乱発生
- 超国家企業の出現に伴う国家の役割・権限の低下
- シンギュラリティ到達による人の役割の革命的変化
- 特定企業によるキラー技術の独占
- 日本人の国家横断的なコミュニティへの帰属意識の高まり
あわせて、国のあり方に中程度の変化を与える部分の、一定確率で発生(中)~発生そのものが不確実(小)の部分にもふれておきましょう。
国のあり方に中程度の変化を与える部分
一定確率で発生(中)
- 地域貿易圏の強大化
- 現在の政治制度への不信増大
- 貧困層の増加と影響力拡大
- 日本国民の価値観多様化とGDPの限界の顕在化
発生そのものが不確実(小)
- 中国の政治・経済面での混乱発生
- アジア諸国での国家破綻と多数の難民流入
- 超エリート層の発生と国家選択の顕在化
- 世界的な食糧不足/高騰化
このように並べてみると、
「あれ・・、こちらもすでにこの2年近くで顕在化している部分もあるな」という印象を持たれる方もいらっしゃるかと思います。
特に、「IoTの普及を通じた個人情報の把握とコントロールの現実化」について、特に「個人情報の把握」の面においては、実用化が強く進み、顔判別・認証システム、(海外での)信用スコアの普及、位置把握の精度の向上など、技術・精度ともにこの数年で著しく発展しました。
他に、起こりうる可能性が高いと分類された、
- 少子高齢化に伴う国力低下
- 第4次産業革命の実現による産業構造の変化
- ネット、ITの進化に伴うメディアや経済活動の革命的変化
- 都市/地方の二極化拡大に伴う新たな問題の発生
- 女性の社会進出加速化
についても、それぞれ顕在化しつつある部分は大きいでしょう。
日本に起こりうる3つのシナリオ
資料P20に、現状を踏まえ、将来起こりうるシナリオとして3種の予測がされていますので、こちらも引用します。
現状
- 国家が政治・経済等で重要な役割を担う
- 地域貿易圏など、国家横断的な連携が進む一方で、個別には国家間の対立も存在
将来のシナリオ(3種)
1.グローバル化と技術の進化を背景に、超国家企業が主導する世界
- 世界のボーダーレス化、国家の役割の世界的統合が進展– 各種国家機能の統合– 貿易の完全自由化 等
- 巨大な超国家企業と超エリート層が富と力を独占等
2.大国でナショナリズムが台頭し、国家主導の紛争が絶えない世界
- 米国等で保護主義政策がとられ、ボーダーレス化が頓挫
- 国家の役割が現在以上に重要化し、GDP成長 (=富国強兵) への期待が高まる
3.世界的に複数の価値観が併存し、それぞれが独自に進化していく世界
- 複数の大国が、経済面を超えた異なる価値観を打ち出し、それらを中心に周辺国家や大企業、国民が結集
- 人は自身の価値観に合う国家群を (物理的/バーチャルに) 選択
どれも起こりうることが想定されるシナリオですし、あるいは3つのシナリオの特定の部分が断片的に具現化する、という可能性もあるでしょう。
”人は自身の価値観に合う国家群を (物理的/バーチャルに) 選択”という部分では、エストニアのように、e-Residency、「電子国民」として登録できる制度を設ける国もあります。
今後の社会の趨勢、メガトレンド・リスト
このような日本・世界の傾向を踏まえて作成されたのが、P28の「メガトレンド・リスト」です。
全体の表をピックアップすると非常にボリュームがあるため、ビジネスに繋がる部分(それでもかなりの部分ですが)を中心に引用します。
Terra Trends
Demographics(人口統計学的属性)
- 人口増加
- 高齢化
- 移民/人種の多様化
- 女性の活躍
- 肥満と食生活
- ジェネレーションY/ミレニアル世代((1980~2000年ごろ出生した世代における新しい価値観)
- 都市化
- 人の流動性
Consumer Trends
- カスタマイゼーション(自由に内容、成分などを決められる)
- ブランド・アフィニティー(ブランドに対する、友人のような身近なつながり)
- トレーディングアップ / ダウン(製品やサービスの水準を引き上げて、提供価格を上昇させる、下降させる)
- 運動とフィットネス/余暇の傾向
- オーガニック
- 時間短縮-便利化
- エンターテイメント/セレブリティ文化
- ヘルス&ウェルネス
- 自社ブランド
- 美意識の高まり
Other Terra Trends
- 交通(例えば、自動運転など)
- 人ゲノムプロジェクト
- オープンソース(プログラム開発のソースコードを商用、非商用の目的を問わず利用、修正、頒布することを許可。WebブラウザのFirefoxなど、オープンソースで開発されているソフトウェアも多く存在)
- グリッドコンピューティング(ネットを介して複雑な処理を並列で行わせる)
- 知的財産
次にEcono Trendsですが、Economy & EmploymentとGlobalizationの部分について、経営者・ビジネスパーソンとして関わる要素が強い部分を要約します。
Economy & Employment
- アウトソーシング & オフショアリングなど、外部への委託、海外などへの委託が進んだり、企業の統合、M&Aが広がる。
- 商品のコモディティ化、つまり商品の一般化による市場価値の下落が進みやすくなる可能性。
- (少子化・グローバル化による)人材獲得競争が発生し、生産性重視の傾向はより強まる。
- (全世界で、水・水道・電気・交通網などの)インフラにかかわる様々な需要増
- 小規模ビジネス(など、個人や少人数単位でのビジネスが活発化)
- シェアリングエコノミー(により、車・家・その他あらゆるもの、人の労力が共有される経済圏の発生)
Globalization
- 急成長新興国、中国、インドの台頭
- (世界における)中流層の台頭
- ネクストビリオンコンシューマー(特に中国・インドなど)という、大量の経済力を持つ消費者層の出現
上記の点に関しても、既に日本、世界で進みつつある部分が多くあるといえましょう。
シェアリングエコノミーでいえば、カーシェアリングなども既にメジャーになっており、中国・インドやアジア諸国の台頭は、目覚ましいものがあります。
次に、Tech Trendsの部分ですが、ここは概念的な言葉が多いPlatforms & Connectivityを除き、引用します。
かっこ部分は、ブログ作成者の注釈です。
Technology Trends
- ナノテクノロジー
- 新素材
- モバイルデバイス
- RFIDとセンサネットワークの台頭(既に店舗の在庫管理など様々な分野で応用)
- ワイヤレスコミュニケーション
- スマートデバイス(スマホ・タブレット・PCなどを包括した情報機器全般)
- インターネットアクセス(5G、Wifi6など高速技術)
- ロボティクス
- 3D プリント技術(ウォール・ストリート・ジャーナルWeb版には、家の建築ができる3Dプリンタが開発されたという記事もある https://jp.wsj.com/articles/SB10034260449905153601704585175473181737074
- ビッグデータ
- 自動運転技術
- AIと機械学習
- VR / AR(バーチャルリアリティ/拡張現実。VRでは、FacebookのOculus Quest、プレイステーションのVRなど実用化、ARでは各種スマートフォンのアプリでAR機能が活用。Dragon Quest WalkやポケモンGOもARの機能を一部活用している。)
Life Sciences/ Healthcare(要約)
- ヘルスケアへの支出(病気が重くなってから治療するのではなく、予防など)
- 医療技術の発達など
Energy & Power
- エネルギーの不安定性
- 代替エネルギー源需要
- 持続可能な輸送手段(自動運転・ドローンなど?)
上記の部分は、ナノテクノロジー、RFID、自動運転、ビッグデータ、VR/AR、3Dプリンタなど、既に実用化が進んでいる分野が多くあります。
また、上記には書かれていませんが、ゲーミフィケーション(ゲーム以外の分野でも、ゲーム的要素を取り込み、楽しく取り組めるようにする)も、近年進展している分野として挙げられます。
ポケモンGO、ドラクエWalkなどは、画面上に現実の場所とリンクしてキャラクターが出現するARの要素を取り込むゲームでありながら、外へ出て歩くという、副次的なヘルスケアのゲーミフィケーションも実現している、これからのトレンドを複合的に取り込んだプロダクトといえます。
また、ブログ作者個人の見解ですが、VRやリモートワーク、電話会議、ビジネスチャットなど直接会わなくてもコミュニケーションが取れる手段が増える現代において、(個人的にはですが)直接会う、何かのイベントに直接行く、店頭で商品を直接見る(空間も含めて楽しむ)などの要素が、より重要視されるようになるのではないかと推測しています。
Meta trends(未来における潮流)
Scarcity vs. Abundance(希少なもの・要されないもの)
• 廃棄物の処理方法
• 水不足
Environmental crisis(環境危機)
• グリーンプロダクト
• 地球温暖化への注意喚起
• 炭素クレジット
Contentment vs. Striving(満足感を得ること、ある種の自己逃避を含む側面も)
• 娯楽ビジネス
• 宗教
• 幸福
• ニューコミュニティー
Challenge of Governance(統治への試み)
• 民営化
• 教育重視
• 二極化
• 博愛主義の台頭
Risk & Security
• 偽造(ブロックチェーン技術などで対応できるか)
• 民間セキュリティ
• パンデミック
• 自然災害
• 自治体の破綻(日本でも他人事ではない)
• 個人情報の侵害
Role of Business(ビジネスに求められる役割)
• CSR(企業の社会的責任)
• NGO / NPO
• ビジネスの透明性
(一部省略した項目があります)
と、一気にトピックを並べましたが、その中でも、政府・大企業など大きな組織が関わる分野として、
- 水資源の獲得(及び水道の民営化を行うか否か)
- 地球温暖化対策をどうするか
- 民営化する事業の選択
- パンデミック・災害への対策
- 自治体破綻
- CSR
などは、完全に政府や大企業の領域です。
一方、経営者・ビジネスパーソンの観点で、強いて接点が持てそうな領域を挙げると、
- グリーンプロダクト
- エンタテインメントや、夢を見せるビジネス(夢を実現させるビジネス、というのが理想ですが)
- 教育(二極化への対応として、教育に投資する層に対応する、もしくは地方、マス層へ向けwebなどを通して教育事業を行う、リカレント教育など学び直しへの受け皿となる教育機関となる)
あたりは、切り口を考えれば入り込める余地が少しはあるかもしれません。
グリーンプロダクトについては、規模を問わず、環境に配慮した製品・サービスとして、アピールする余地があるでしょう。
教育についても、様々な分野、切り口や年代、受ける側の前提知識など、様々な差・学びたいことが存在しますので、まだ現在の教育産業で満たし切れていない部分をカバーできれば面白いかと思います。
なお、ここに書いてある内容は、経済産業省とBCGのレポートの約430ページのうち、最初の27ページまでの部分の一部に過ぎません。
お時間があるときに、PC、タブレットなどのデバイスでPDFをご覧になることをおすすめします。
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000280.pdf
また、P146に「日本におけるペインポイント」という表についても、これからのトレンドを考える上で非常に重要な要素が掲載されており、こちらもPuANDAさんのツイートがなければ、存在を知ることができなかったかと存じます。
改めて、この場を借りて、PuANDAさんに御礼を申しあげます。
「日本におけるペインポイント」には、現在、そしてこれからの、「労働者」「若者」「高齢者」「親」「マイノリティ」が直面する「痛み・不便」のポイントが記されており、日本の「不」を知る上で非常に参考になる表ですので、こちらの表からも大きなヒントが見つかるかもしれません。
また、P146「日本における主体別のペインポイント(例)」をよりクラスタごとに分け、さらに現在想定されるペインポイントを加えた記事も作成しております。
親(母親)のペインポイントから見る、現状の不満と新規ビジネス