約束手形が廃止の方向へ!?為替手形も支払いサイトを60日へ、中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ議事にみる、今後の方向性

「約束手形支払いが廃止の方向」というトピックが一部新聞で取り上げられていました。

出所は「第1回中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」の議事。

手形・支払いサイト・取引適正化など大きなテーマがいくつもありますが、中小企業の経営に関わりそうな分野をメインに取り上げていきます。

 

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そもそも手形とは?

まず、「手形」とは、将来の定めた期日に、相手へ約束した金額を支払う(手形を受け取った側は受け取る)という証書のことをさします。手形には、支払いサイトとして、60日や120日(業種により、120日より短い業種もある)などを定め、約束の日にお金を支払います。

もし、手形を振り出した側が、約束の日にお金がなくて支払えないとなると、当然受け取る側は、「あてにしていたお金がこない!」となりますし、手形を振り出した側も、「不渡り」としてペナルティを受けます。

この会社は、手形を支払えませんでした、として「全ての金融機関に不渡り処分を受けたことが通知」されます。そうすると、当然他の金融機関も、「この会社やばい」となりますので、融資取引がある金融機関の場合は回収などに走るでしょうし、新規の融資は当然行わないでしょう。

そして、2回目の不渡りを起こすと、御社とは金融機関としてもう取引できません、と「銀行取引停止」処分を受け、事実上の「経営破綻(倒産)」となります。

ちなみに、金融機関が融資を受けるときに、「金銭消費貸借証書(金消)」という証書で契約を行いますが、まず間違いなく、「銀行取引停止処分を受けたら、期限の利益(約束した期限までにお金を支払えばよいという権限)喪失」という条項があります。

ストレートに表現すると、「2回目の銀行取引停止処分を受けたら、もう信用ないから、一括でお金を返して!」と迫られる、しかし払える訳がないので、「事実上の倒産(経営破綻)」となるのです。

手形には2種類があり、全ての手形が廃止になるわけではない

手形にも2種類あり、今回廃止の方向の「約束手形」と、廃止の方向性は出されていない「為替手形」があります。

約束手形:払う人と受け取る人の2社(者)間で行き来

為替手形:払う人、受け取る人に加え、「この人に受け取ってね」、と支払いを指図する人が存在

今回「廃止する方向で行こう」という提案がされているのは、「約束手形」の方です。

また、期間もこれまで90日や120日だったのは、長すぎるでしょうということで、60日に短縮しようという提案もされています。

 

この議事は、約束手形支払いの廃止方向以外にも、中小企業にとって様々な重要トピックを含むので、中小企業向けの部分を主体に、要点をピックアップしていきます。

 

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中小企業の取引適正化における、支払いの課題

最初にトピックとされているのは、先ほども言及した手形、加えてファクタリング(請求書買取)の問題。

 

●手形サイトが90日、120日に張り付いている。
●約束手形の割引料が下請代金に加味されていない。
●手形やファクタリングの割引率の水準が低金利に比して高い。
●振出人の7割、受取人の9割が手形をやめたいとの意向。

 

など、事業者からは、手形をやめたい、ファクタリングの手数料が高いという声が大きく挙がっていると言えます。

 

そこで、改善案として出てきたのが下記の方針。

2024年を目途に以下の徹底を図る(資金繰りに影響する経済状況等を勘案して判断)。
◆手形サイトを60日に改善する。
◆割引料の親事業者による負担を進める。
また、上記の進捗を踏まえながら、以下の実現に向けた検討を進める。
◆割引率やファクタリングの手数料の低減を図る。
◆約束手形の利用の廃止を進める。

 

つまり上記に「割引料」というのがありますが、手形を期間より早く現金化したい場合は、手形割引という形で、手数料を支払い現金化できますが、これまでは手形を受け取る側が手数料を支払うのが一般的でした。

しかし今後は、親事業が負担という方向を定めることにより、下請け事業者・手形を受け取る側の負担を減らそうという方向です。

 

そのため、今後公正取引委員会・中小企業庁・金融庁では、

・年度内に、手形通達を改正(例:支払サイトの60日化、割引料の親事業者負担)(公正取引委員会・中小企業庁)
・今夏を目途に、産業界・金融業界による『約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画』の策定を進めると共に、その進捗等をフォローアップ(中小企業庁・金融庁)

という形で、官の側が明確なプランを作り、きちんと計画が進んでいるかをフォローすることで、約束手形の廃止、支払いサイトの短縮、手形割引の親事業者負担を進めて行くことを具体化しています。

また、産業界・金融業界では、それ下記の通り自主行動計画を策定。

<産業界>既存の自主行動計画の改定
・手形サイトを含む納品から現金化までの期間全体の短縮化、約束手形から現金払・電子
記録債権の利用等のへの移行(約束手形の利用の廃止)
・ こうした取組を大企業間取引まで広げ、大企業から順にサプライチェーン全体で目指す。

 

<金融業界>新たに自主行動計画を策定
・振出側に有利な取引慣行の見直し(例:料金体系等)
・ 電子的手段(インターネットバンキング、電子記録債権)の利便性向上、普及促進
・手形の利用の廃止に伴う資金負担への対応

 

このように、官民双方が取り組みを行うことで、約束手形は廃止、為替手形も60日に支払いサイトを短くして、不渡りによる連鎖倒産などトラブルを無くしていこうよ、というのが今後の方向性です。

 

この「約束手形廃止」が大きなトピックではありますが、他の取り組みも複数進んでいます。

 

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受発注から決済までのデジタル化を通じた生産性向上

これは多くの人が想像がつくと思いますが、今までは電話・封書・FAX・メール・電子決済その他いろいろな発注の仕組みがあったけど、今時デジタルじゃないと非効率なので、デジタルにシフトしましょう、という方向付けです。

課題としては、

・発注側企業や業界ごとの電子受発注システムが乱立。7割程度の中小企業が電話・FAX・電子メールで受発注(電子受発注システム導入率は約2割、業種によりばらつきあり)。
・受発注、会計・経理、決済まで一気通貫に手続きができるよう、①各種の受発注システム間、②受発注、会計・経理、決済システム間の接続が重要。
・これまで、2017年度に中小企業共通EDIを策定し、2020年度より共通EDIに準拠した製品・サービスの認証を開始。今後は普及促進が課題。

この対応策として、

中小企業のみならず、発注側企業(大企業等)やプロバイダにも働きかけが必要。
・まずは2023年を目途に電子受発注システム導入率約5割(調整中)を目指す(導入企業の見える化、認証済み製品・サービスの拡大)。【中企庁】
・比較的システム導入が進む卸売業でも、特定の商品分野での遅れといった課題あり。重点的に取り組むべき業種の課題を把握・対応を具体化。【中企庁、業所管省庁】
・併せて、(大企業等と中小企業の間でデータ接続を行う)プロバイダによるデータマッピン
グ促進に向けた障壁や課題を把握・とりまとめ。【中企庁】
・幅広い事業者が共通的に使える電子インボイスの標準仕様を確立。【IT室】

など、BtoB(法人対法人)に関しては、電子受発注をできるだけデジタルベースにしていこうよ、という方向付けがなされています。

 

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適正な知財取引と知財経営の推進

これも、これまで下請側が「図面やノウハウだけ持って行かれてしまった・・」という事例があるため、下記のような課題と対策が提言されています。

 

・公正な条件での適正な契約を締結できていない。
(下請事業者のノウハウを無断で内製化、図面提供の強制等)
以下のガイドライン等をとりまとめた上で、来年度より、知財等に関する取引状況調査を開始し、進捗を毎年フォローアップする。
知財取引における契約のガイドライン・契約ひな形
当面のアクションプラン
・年度内に、下請振興法に基づく「振興基準」を改正し、ガイドライン等を位置づける。【中企庁】
・来年度より、ルールの定着に向け、産業界への働きかけ等を実施。【中企庁・公取委】

 

この上で、下請Gメン(Gメンという響きが、人によってはGメン’75という懐かしいドラマを思い出す人もいるかもしれません。)の調査結果として、

<下請Gメンの生声>
親事業者が立合いと言って工場を見学し、自社のノウハウを持っていかれて内製化されてしまった。
・過去の主要取引先に金型図面を渡したら、そのまま海外でコピーされた。

こういう、ノウハウを盗まれてしまったという現状がある中で、下記の取り組みを行うとしています。

以下のガイドライン等をとりまとめた上で、来年度より、知財等に関する取引状況調査を開始し、進捗を毎年フォローアップする。
◆知財取引における契約のガイドライン・契約ひな形

・ノウハウを含む知的財産権を事前の承諾を得ずに、他の目的に利用等してはならない。
・製造委託の目的物とされていない、金型の設計図面等の提供を強制しない。等

アクションプランとして、

当面のアクションプラン
・年度内に、下請振興法に基づく「振興基準」を改正し、ガイドライン等を位置づける。【中企庁】
・来年度より、ルールの定着に向け、産業界への働きかけ等を実施。【中企庁・公取委】

 

他にも分野毎の課題に応じた取引適正化、生産性向上の取り組みなどが議論されています。

 

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公正取引委員会における、取引適正化への取り組み

公正取引委員会サイドも、新型コロナによる下請事業者の厳しい状況を踏まえ、

感染症の影響もあり,下請事業者の事業環境が一段と厳しくなっている中,下請法違反行為に対し厳正かつ積極的に対処
○ 令和2年度上半期においては,下請法施行(昭和31年)以降最多(※半期実績)となる5千件超の指導,悪質な事案に対しては勧告。下請代金の支払遅延,減額,買いたたきといった事案が多数(実体規定違反の9割)
○ 働き方改革が推進される中で,親事業者による長時間労働削減等の取組により,下請事業者に対する適正なコスト負担を伴わない短納期発注等の「しわ寄せ」を生じさせないよう,下請法違反行為に厳正に対処

この中で、NG事例として、

親事業者が,同社に生じた事情により下請事業者に委託した作業ができなくなったにもかかわらず,そのことによって下請事業者に生じた費用を負担していなかった。
また,当該作業を後日,土曜日,日曜日又は祝日に委託していた。
⇒下請法が禁止する不当な給付内容の変更等に該当するとともに,下請事業者の働き方改革を妨げるもの

というケースを指導対象にしたことも挙げ、下記の通り取り組みを行っています。

下請法違反行為の未然防止を図るため,受講者の理解度等に応じた事業者向け講習会を開催し,働き方改革に関連する事案を含む下請法違反行為の実例を活用するなどして,効果的な周知・啓発
○ 関係省庁とも連携しつつ,幅広く業界等への周知を実施
• 厚生労働省,中小企業庁と共同して,働き方改革に伴う「しわ寄せ」防止に向けた対応を関係省庁に要請(令和2年10月)
• 中小企業庁と共同して,年末にかけての金融繁忙期において,下請代金の支払遅延や減額,買いたたき等が行われないよう,関係事業者団体約1,400団体に下請法の遵守の徹底等を要請(令和2年11月)

 

他にも放送コンテンツの制作取引適正化、トラック運送業・電子インボイスなどの話が上がっていますが、やはり現状で一番大きな方向付けは、「約束手形の廃止」ではないかと思います。

 

今後、いつ、どのような段階を踏んで手形取引の改変に取り組むかは今後示されるかと思いますが、手形取引に関わる事業者は、動向にアンテナを張っておく必要があると言えます。