5年間・15兆円を投じる国土強靱化計画の1年目(令和2年度第3次補正予算案)が来た!

令和2年度第3次補正予算案ということで、いろいろな計画・予算案が出ていますが、今回個人的に目を惹かれたのが、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」

12月15日に第一報を書きましたが、12月21日に、内閣官房のホームページに詳細が掲載されましたので、まずは概要を解説、その後に各種詳細をふまえた、より詳しい解説を行います。

 

なお、当初タイトルに「15兆」と書いていましたが、「5年間」で15兆となりますので、その点追記しておきます。

 

近年、風水害・地震など災害が多発する現状で、現在のコロナ渦の最中に大きな災害が発生すると、災害の直接被害の他、コロナによる被害の拡大も懸念されます。

 

その中で、

・激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
・予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速
・国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進の各分野について、更なる加速化・深化を図る。

 

各地で災害対策だけでなく、インフラの老朽化や、建設現場のデジタル化が要される中、

 

国土強靱化関係補正予算(案) 国費 2兆2,604億円(事業費 3兆4,963億円)

うち、公共事業関係費 国費 1兆7,488億円(事業費 2兆5,252億円)
うち、「5か年加速化対策」分 国費 1兆9,656億円(事業費 3兆 541億円)
うち、公共事業関係費 国費 1兆6,500億円(事業費 2兆3,973億円)

 

と、「建設だけではなく、防災・インフラ整備など、国民の命・安全を守るという観点から、巨額の費用が投じられることになります。

 

予算の振り分けとしては、

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  1. (1)人命・財産の被害を防止・最小化するための対策(国費8,930億円 事業費1兆3,742億円)
  2. (2)交通ネットワーク・ライフラインを維持し、国民経済・生活を支えるための対策(国費6,470億円 事業費1兆43億円)
  3. 予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策( 国費3,984億円 事業費6,480億円)
  4. 国土強靱化に関する施策のデジタル化(国費134億円 事業費134億円)
  5. 災害関連情報の予測、収集・集積・伝達の高度化(国費138億円 事業費142億円)
  6. その他(国費2,948億円 事業費4,421億円)
  7. 令和3年度国土強靱化関係予算案が目指すもの
    1. 住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊、大規模火災などによる多数の死傷者の発生を回避し、命を守る
    2. 広域にわたる大規模津波等による多数の死傷者の発生を回避することで、命を守る
    3. 市街地等の浸水、土砂災害・火山噴火等による多数の死傷者の発生を回避することにより、命を守る
    4. 救助・救急活動等の不足、劣悪な避難生活環境等による被災者の健康状態の悪化・死者の発生を回避することで、救助・救急、医療活動、被災者等の健康・避難生活環境を確実に確保
    5. 情報サービスを止めない体制作り・情報サービスが機能停止し、情報収集・伝達ができず、避難行動や救助・支援が遅れる事態を回避
    6. 関連

(1)人命・財産の被害を防止・最小化するための対策(国費8,930億円 事業費1兆3,742億円)

  • 流域治水対策(河川、下水道、砂防、海岸、農業水利施設の整備、水田の貯留機能向上)
  • 港湾における津波対策
  • 地震時等に著しく危険な密集市街地対策、災害に強い市街地形成に関する対策
  • 防災重点農業用ため池、治山施設、森林、漁港施設等の強靱化
  • 医療施設、社会福祉施設等の耐災害性強化
  • 自衛隊、緊急消防援助隊、警察の装備資機材等の増強

 

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(2)交通ネットワーク・ライフラインを維持し、国民経済・生活を支えるための対策(国費6,470億円 事業費1兆43億円)

  • 道路ネットワーク、鉄道等の機能強化
  • 市街地等の緊急輸送道路における無電柱化の推進
  • 水道施設の耐災害性強化
  • 一般廃棄物処理施設の強靱化

 

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予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策( 国費3,984億円 事業費6,480億円)

  • 河川・ダム・道路・港湾・鉄道・空港等の老朽化対策
  • 農業水利施設等の老朽化、豪雨・地震対策
  • 公立小中学校施設の老朽化対策、国立大学施設等の老朽化・防災機能強化対策

 

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国土強靱化に関する施策のデジタル化(国費134億円 事業費134億円)

  • 河川、道路、港湾等におけるデジタル化の推進
  • 無人化施工技術の安全性・生産性向上対策

 

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災害関連情報の予測、収集・集積・伝達の高度化(国費138億円 事業費142億円)

  • 線状降水帯の予測精度向上等の防災気象情報の高度化
  • 被害情報等の把握及び共有のためのシステム整備

 

その他(国費2,948億円 事業費4,421億円)

  • 総合防災情報システムの整備
  • 準天頂衛星システムの防災機能の強化及び開発加速等

 

と、それぞれの項目に相当な予算が割かれていることがわかります。

 

特に、風水害・大規模地震等への対策(は、国費1兆5,400億円 事業費2兆3,785億円)と、全予算の7割近くと、今回は

 

  • 治水
  • 津波対策
  • 密集市街地対策
  • 施設の強靱化
  • 道路・鉄道網の整備

などの点に、相当力がおかれていることが窺えます。

 

また、インフラの整備・老朽化対策にも予算が割かれるなど、「治水・防災・全方位の強靱化・IT化推進」が、今回の国土強靱化計画の4本柱と言えます。

 

では、具体的に国土強靱化計画で何が変わるのか。

 

各種政府の文書もありますが、この中から要点を抜粋しつつ、一般の方・建設ほか各種事業者向けに、国土強靱化計画でどういう方向に持っていくのか?という点を深掘りします。

 

令和3年度国土強靱化関係予算案が目指すもの

まずは、基本方針を見てみましょう。

○「経済財政運営と改革の基本方針2020」(令和2年7月17日閣議決定)に基づき、激甚化・頻発化する水災害、切迫化する大規模地震災害、いつ起こるか分からない火山災害等から国民の命と暮らしを守るため、防災・減災、国土強靱化について、ハード・ソフト一体となった取組を強力に推進する。
○令和3年度国土強靱化関係予算案においては、「国土強靱化基本計画(平成30年12月14日閣議決定)」に基づき、15の重点化すべきプログラムを中心として、施策の重点化・優先順位付け、ハード・ソフトの組み合わせ等により、府省庁横断的な国土強靱化の取組を重点的・効果的に推進する。

 

省庁の枠を超えて、国土強靱化を図るためにあらゆる政策を打とうという方向です。

 

重点化される15のプログラムをそのまま挙げていくと、膨大な量になりますので、具体的にどういう施策を行うかを抜粋していきましょう。

 

住宅・建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊、大規模火災などによる多数の死傷者の発生を回避し、命を守る

 

  • 住宅・建築物、学校、社会福祉施設等の耐震化等の促進
  • CLT(直交集成板)等の開発・普及
  • 帰宅困難者対策に資する公園緑地の活用
  • 密集市街地対策の推進として、避難地の確保、避難路沿道の不燃化・市街地再開発事業の活用・老朽化した建物の建て替え・除去など
  • 宅地耐震化推進事業で、大規模盛土造成地の変動予測調査及び防止対策を推進
  • 避難地等となる公園、緑地、広場等における老朽化対策の推進

 

広域にわたる大規模津波等による多数の死傷者の発生を回避することで、命を守る

  • 大規模津波等に備えた対策の推進で、海岸堤防整備や水門・陸閘等の自動化・遠隔操作化 を図る
  • 港湾における津波避難対策を実施し、「粘り強い構造」を導入した防波堤の整備や港湾労働者等が安全に避難できるような津波避難施設等を設置することを推進
  • 避難路・避難施設等の整備で、大規模津波発生時においても迅速な避難が可能となるよう、高台への避難路・避難施設の整備を進める
  • 大規模地震災害に備えた監視体制の確保のため、津波避難の緊急性がより分かりやすく伝わる
    よう、文字情報だけでなくビジュアル化して提供する試みや、より詳細に解析した推計震度分布情報の提供を進める
  • 海岸防災林の整備で、津波被害を想定した粘り強い海岸防災林の整備や、既存の海岸防災林を海岸侵食や病虫害等から保全

 

市街地等の浸水、土砂災害・火山噴火等による多数の死傷者の発生を回避することにより、命を守る

  • 「国・都道府県・市町村、企業、住民」など流域のあらゆる関係者で水災害対策を推進
  • 集中豪雨や火山噴火等に対応した総合的な土砂災害対策を進めるために、法面工の整備・砂防堤防の整備・地滑り防止施設整備・避難所、防災拠点整備等を進める
  • 事前防災・減災に向けた治山対策荒廃山地の復旧・予防対策と総合的な流木対策を進める
  • ため池のハード及びソフト対策の推進で、ため池の整備・廃止・監視カメラ設置・ハザードマップ作成を行う
  • 防災・減災及び災害対応に資する地理空間情報の整備、活用、共有を推進、災害リスクの把握が可能な防災地理情報、高精度な標高データの整備を行い、統合的な検索・閲覧・入手を可能とする
  • 火山災害の軽減に貢献するため、他分野との連携・融合を図り、「観測・予測・対策」の一体的な研究の推進及び火山研究者の育成を図る

 

救助・救急活動等の不足、劣悪な避難生活環境等による被災者の健康状態の悪化・死者の発生を回避することで、救助・救急、医療活動、被災者等の健康・避難生活環境を確実に確保

救助や救急体制の充実は、緊急時に命を救うという観点で欠かせません。具体策としては、

  • 緊急消防援助隊の活動体制の充実強化
  • 警察用航空機等の整備
  • 災害派遣医療チーム(DMAT)の養成
  • 輸送ヘリ(CH-47JA)の取得
  • 自衛隊統合防災演習の実施
  • 地域防災力の中核となる消防団及び自主防災組織等の充実強化として、消防団への感染防止資器材の整備に対する補助や、救助用資機材(救命ボート、発電機、投光器、排水ポンプ等)の無償貸付、女性・若者等の消防団加入促進支援事業を図る
  • 消防防災施設の整備促進で、耐震性貯水槽 ・備蓄倉庫(地域防災拠点施設)・活動火山対策避難施設等を整備

 

情報サービスを止めない体制作り・情報サービスが機能停止し、情報収集・伝達ができず、避難行動や救助・支援が遅れる事態を回避

  • 人工衛星を活用した防災体制の強化で、被災者の安否情報を準天頂衛星システムにより収集し避難所の防災機関等へ伝達したり、広域高分解能衛星の観測データを、被害状況の早期把握、復旧計画の速やかな立案等に活用するシステム開発・運用
  • 災害対策としての放送ネットワークの整備支援として、地域基地局の設置・ケーブルテレビ幹線の2ルート化・(地震等発生時に)自動で起動するラジオの普及など、災害発生時に地域において重要な情報伝達手段となる放送ネットワークの強靱化
  • 防災情報の伝達体制の強化として、防災無線の強化
  • 防災等に資する公衆無線LAN環境整備の推進

 

その他にも、エネルギーや上水道等のライフラインの機能を継続的にする、交通ネットワーク、サプライチェーンの寸断等を回避などが挙げられていますが、この15のプログラムをシンプルに集約すると、

  • 人が亡くならない
  • 救助や救急整備に加え、被災時に生活環境を整える
  • 通信機能・サービス等の情報インフラを守る
  • 経済活動を継続させる
  • ライフライン等の被害を最小限に、かつすぐ復旧させる
  • 複合災害・二次災害(例:地震による火災)を起こさない

上記の点がポイントになります。

 

以上の通り、これまで以上に、防災・治水・インフラ整備が進むと共に、ひっそりと税制優遇として、

災害ハザードエリアから安全な区域に施設又は住宅を移転する場合に、移転先として取得する土地建物に係る登録免許税を1/2に軽減するとともに、不動産取得税の課税標準を4/5に軽減する特例措置(2年間)を創設

という、ハザードエリアから安全な区域へのエリアからの期限を区切った税制優遇。

中小企業が、防災・減災に投資する際の促進税制の拡充、延長として、

近年の激甚化・頻発化する水害等の自然災害や、新型コロナウイルス感染症に対する中小企業の事前対策を強化するため、国の認定を受けた「事業継続力強化計画」に基づき導入する防災・減災のための設備に対する特別償却(20%)の対象を拡充するとともに、適用期限を2年間延長

 

他にも税制優遇措置はありますが、一般的に関係があるのはこの2つでしょう。

 

今後、インフラ整備が厳しい地区に対する集落ごとの集団移転などまで踏み込んでくるかと思いましたが、国土強靱化計画の政策においては、この点に言及していないようです。

(他の政策で何らかの措置が行われているかもしれませんが・・)

 

5年間でおよそ15兆を投じる国土強靱化計画、今後どのように展開されていくのでしょうか。

 



 

 

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