海外で行うオフショア開発と国内(地方)で行うニアショア開発の違いとは?そして、どちらが自社に適しているのか?
2019年4月より本格的にスタートした働き方改革と、以前より続くエンジニア不足の影響で、システム開発エンジニアの確保がより重要になってきていました。
しかし、自社人材を採用するということは、経営者、特にスタートアップや中堅企業にとっては難しさが増しています。特に、ITエンジニアの争奪戦が続く都内であればなおさらです。そうなると、外部への開発委託を検討することが必要となってきます。とはいえ、都内の企業への委託も、コスト面で非常に高くなりつつあります。
・・・というのが2019年までの趨勢でした。
しかし、2020年に発生した新型コロナウイルスの問題で、かなり様相が変わってきたと言えます。
- 全世界的な経済の停滞
- 海外との移動制限というこれまででは考えられなかったリスク
- 外国での新型コロナウイルス流行リスク
- 国内でのクラスター発生のリスク
もちろん、オフショア開発の良さも様々ありますが、今後、「新型コロナウイルスに対して流行がない・安全な地域」というのは、確実に一つのアドバンテージになるでしょう。
例えば、人口が少なく、感染者・クラスター発生も少ない西日本・特に山陰・四国・九州南部などは、海外の代替すると開発拠点として「人材採用・人材育成という課題」さえクリアできれば、施設のコストなどを圧縮でき、人材の流動性も都市部より少ないため、非常に穴場と言えます。
以前から海外へ開発業務を委託するオフショア開発がメジャーではありましたが、新型コロナウイルスの問題や、後ほど述べるように、海外へ開発を委託することによる、時間や言葉の問題、その他の問題で、選択肢についても、オフショア開発以外の手法を探る必要が出てきています。
そこで、働き方改革への開発要員増への対応と品質向上を図りつつ、コストを削減する方法としてメジャーなのが、そして近年徐々にメジャーになりつつあるニアショア開発です。
当記事では、ニアショア開発とオフショア開発を比較しました。
ニアショア開発とオフショア開発の定義・違い・実情とは?
まず、ニアショア開発とオフショア開発の定義について、まとめてみましょう。
一言でいうと、
ニアショア開発→開発の一部分や全体を国内の地方に委託
オフショア開発→開発の一部分や全体を海外に委託
と定義できます。
以前から、オフショア開発という言葉は有名で、実際にオフショア開発を行う企業も多くあります。
ですが、海外に制作拠点を移すことから、開発コストは安くなる分、先ほど述べた「課題」も発生します。
オフショア開発の課題とは?
オフショア開発の課題について触れてみましょう。
日本人の考える開発クオリティと、委託先の納入物のクオリティに差がある
最大の課題は、「想定した成果物と納入された成果物にズレがある」「クオリティが一定せず、安定しないことがある」という、品質のコントロールではないでしょうか。
日本人の場合、国民性もあるのか、自身のスキルを「盛る」より、むしろ「控えめにする」傾向があります。
逆に海外ですと、強い主張をすることが文化という国も多く、できないことでも「できるよ」といわれ、いざフタを開けたら「あれ・・・?想定したレベルと違う」という事態も散見されます。
優れたブリッジスタッフがいないと、開発先との意思疎通にズレが生じる可能性がある
クオリティを安定させるには、先方の優秀なブリッジスタッフの存在や、時に自社のスタッフなどを常駐、出張させるなど、成果物に対する日々のモニタリングが必要になってきます。
また、ニアショア開発のエージェントを活用する場合、現地常駐の日本人、もしくは日本語の知識がわかる開発責任者との密なコミュニケーションは必要となります。
世界における、相対的な日本の経済力低下というリスク
インターネットの普及に伴い、国内ではなく海外を通じた取引や開発はメジャーになりました。
しかし、近年多くのアジア諸国が経済的に成長し、相対的に日本の経済力が沈みつつあるのも事実です。
インバウンドで、東南アジアからも多くの観光客が来るようになりましたが、その強い理由は、「日本の物品・サービスが安いから」でした。(新型コロナウイルス発生後は、インバウンドが一気に消えましたが・・・)
コスト削減のためにオフショア開発を選んだのに、負担が大きくなっていく?
最初はコスト削減のために国外に発注していたにもかかわらず、賃金や物価、開発コストが高騰し、オフショア開発を行う意味が薄れてしまうおそれもあります。
また、開発人材はグローバルでの奪い合いのため、優秀な人材や委託先が、別の企業に鞍替えしてしまう可能性もあり得ます。
海外の経済成長が著しくなる中、オフショア開発ではなく、国内の地方に開発を委託する、「ニアショア開発」に着目する企業も増えてきました。
ニアショア開発の依頼側、そして受託する企業・エンジニアにとってのメリットとは?
ここまでオフショア開発について述べてきましたが、次は国内の地方におけるニアショア開発に目を向けてみましょう。
国内のニアショア開発の場合、コミュニケーションコストが低く、長期的な関係が築きやすい
ニアショア開発の場合、コミュニケーションこそ言語の壁がないこと、細かなニュアンス、行間を読むなど、日本人同士なので非常にコミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。
また、地方のニアショア開発者の場合、都内勤務と違い、生活コストも安く、通勤時間も非常に短いです。さらに通勤自体も車で、渋滞もさほどないため、「通勤による消耗」がなく、仕事のために高いパフォーマンスを発揮しやすい環境になっています。
例えば、近年IT企業から注目を集めている、島根県の事例を見てみましょう。
島根県の場合、Ruby開発者のまつもとゆきひろさん(matzさん)が松江市の名誉市民でもあることから、島根県全体でRubyの言語、IT企業に対する理解が進んでいます。
特に松江市では、2016年から松江市内全体の中学校にRubyプログラミングの授業が始まるなど、県や市を挙げた、IT企業の支援体制や人材教育体制が整ってきています。
住宅価格が全国で7番目に安い、保育所の多さは全国2位など様々なデータがありますが、働く人にとって大きいメリットの一つ、通勤・通学にかかる時間の短さです。
県内平均では片道26分と全国2位です。
駐車場も安価に確保できますので、ドアtoドアで通勤できます。
これが首都圏となると、片道50分~1時間越えはざらにあります。
そして、駅から勤務先最寄り駅までの満員電車の移動に加え、徒歩、バスなどの時間も出てきます。
都内と異なり、自宅・職場での駐車場の確保も容易で、電車通勤であっても都内のようなラッシュとは無縁のため、満員電車で消耗せずにすむというのは、エンジニアにとっても大きな魅力であることから、エンジニア自身も仕事に集中しやすくなります。
もちろん、フルリモートという選択肢もありますが、人材育成の必要がある場合は、自走能力が付くまでは職場で育てたい、職場とリモート勤務をフレキシブルに切り分けたいという場合は、職場+リモートの併用も一つの方法ですし、地方ですと都市部に比べ、ソーシャルディスタンスの確保が容易(土地や賃貸料が安く、空間に余裕が持てる)です。
また、地方の場合、海や山など自然も豊富なため、釣りやサーフィン、山登りなどのアウトドア愛好者にとっては絶好の環境です。船も安価に借りられますので、海釣りも容易です。
地方へのニアショア委託の場合、事業者のランニングコストが都内より低い
地方の場合、人件費だけではなく、企業の立地コストなど様々なランニングコストが安価です。
また、新幹線が通っていないという点で、アクセス時間も懸念されがちですが、実は島根県東部の場合、出雲市・松江市などの主要都市であれば、羽田空港から出雲えんむすび空港まで1時間弱、そこからバス・車で30分程度でアクセスできます。品川に本社がある会社の場合、片道2~3時間で行け、日帰りも十分可能です。
ですので、都内からのアクセス性についても、比較的優れていると言えます。
今回は島根県を例に挙げましたが、他のニアショア開発の地域であっても、ストレスフリーな開発環境であり、都内からもアクセスが容易な地域は多く存在します。
都内では近年人材難がさけばれていますが、ニアショア開発を活用すれば、開発のリソースを自社のコア部分に集中し、貴重な人材を主要業務に向けることができます。
そして、ニアショア開発のメリットをさらに高める、「ラボ型開発」について次の項目で説明します。
働き方改革と品質向上ニアショア開発とオフショア開発を4つの項目から比較
ニアショア開発とオフショア開発について、4つの観点からメリット・デメリットをピックアップしてみましょう。
- 成果物の品質
- 依頼先とのコミュニケーションの取りやすさ(働き方改革に対応した時間帯のコミュニケーション)
- コストの削減効果
- 継続性
1.成果物の品質
外部委託を考える上で重要なことは、成果物の品質特性が担保されている、つまり「クオリティが一定水準かそれ以上である」という状態が保てるかというのがポイントです。
オフショア開発の場合、海外にも優れた技術者はたくさんいますが、日本の会社として求める成果物の品質特性と、現地委託先が考える品質特性の水準が異なる可能性もあります。
ニアショア開発の場合、国内同士の会社ということで、品質特性、例えば機能適合性・信頼性・使用性・性能効率性・保守性など、様々な面で品質特性に対する基準・目標を一致させやすいです。
特に使用性、つまりユーザビリティーの観点では、日本人のユーザーにとって使いやすい、直感的に使えるということと、他の国のユーザーにとって使いやすいというのは、若干ニュアンスが異なるケースもあります。
海外のソフトウェアやサービスを使いこなしていると意識しなくなってきますが、やはり日本のソフトウェアと、海外のソフトウェアでは、特に不慣れな人にとっては日本製のソフトウェアの方が直感的に使いやすいケースが多いのではないでしょうか。
オフショアとニアショア、パイプ役になるのは誰か?
オフショアの場合、現地スタッフが主体となり開発実務を行います。国内の自社メンバーとのコミュニケーションは、海外駐在の日本人スタッフや日本語が堪能な現地スタッフがまとめ役となるケースが多いですので、スタッフをブリッジとしたコミュニケーションを行うことはできます。ただし、明確な「行ってほしいことの定義」を伝え、ブリッジするスタッフや現地スタッフがその依頼を曲解することのないよう、噛み砕いて誤解のないように伝えるよう配慮する必要があります。
新型コロナウイルスの影響がいつまで続くかわからない現状、オフショアの場合はブリッジ人材をどう確保するかが課題になります。
ニアショアであれば、ブリッジ役のスタッフを通さずとも、ニアショア開発チームへダイレクトに要望ができるため、依頼のニュアンス・行間の読み取りも含め「察してくれ」やすいです。そのため、より依頼側の要望を具体化し、品質特性を高めたサービス・プロダクトが作りやすいといえましょう。
一方、オフショアの場合は、単純にコストが安い、人数がそろえやすい、言語の壁を除けば、ハイスキルな人材も確保しやすいという特徴もあります。
ただ、ニアショアに関して、どこに頼めばよいかわからないという方もおられるかと思います。
発注ナビのように、地方でニアショア業務受注を積極的に受けてくれる会社を探すことも、
2.依頼先とのコミュニケーションの取りやすさ(働き方改革に対応した時間帯のコミュニケーション)
オフショア開発の大きな課題の一つは、オフショア先とのさまざまな意味での「コミュニケーション」ではないでしょうか。
オフショア開発で生じる時差の問題は、例え数時間であっても大きい
まず、時差の問題が生じます。委託側・受託側双方が業務時間であるときにミーティングなどを行う必要がありますが、ニアショア開発であれば、同じタイムゾーンですので、時差を考慮する必要はありません。
また、オフショアの場合は、依頼する国の雇用慣行・労務規定やその国固有の文化・宗教など、敬意を持ち尊重する部分に対し特に気を払う必要があります。
ニアショアの場合は、タイムゾーンは当然同じ
ニアショア開発の場合は、地域が異なるくらいで、言語・習慣等が異なることはありませんので、コミュニケーションに苦労するということは少ないでしょう。
前述の通り、オフショアの場合、個々のスタッフとのダイレクトコミュニケーションができるとは限らないので、開発責任者の手腕も重要
オフショアの場合は、海外に常駐する開発責任者(ブリッジ人材)のクライアント・スタッフとのコミュニケーション能力が重要となります。
いくら技術がある海外人材であっても、「Garbage In Garbage Out」(ゴミを入れたら、ゴミが出てくる、転じて、プログラムの世界では無意味なデータを入れたら、無意味な結果が返ってくるというスラング)という言葉もあるとおり、ブリッジ人材がいかにクライアントの要求を適正に伝えられるかが重要になります。
3.品質向上と両立化したコストの削減効果
単純なコストの削減効果だけでいうと、ニアショア開発より、オフショア開発の方が、コスト削減が図りやすい傾向にありますが、これは国の経済力によるところが大きいです。
開発コストはオフショアの方が安いケースが多いが、課題もあり、オフショア依頼国により様々
開発コストについては国外も多様化しており、現在はベトナム・カンボジアなどがコスト削減の観点から選ばれる傾向も多いです。成果物、技術者のレベルやコミュニケーションについては、各国それぞれ課題が生じることもあるでしょう。
一方日本のニアショア開発の場合、地方に委託するケースが多いですが、これは地方での企業運営コストが安い(土地・駐車場・生活費などが安い)のが大きな要因です。
人件費等、品質に関わる費用が安いのではなく、企業自体の運営コストが都内に比べ低くすむからこそ、ニアショア開発であれば、品質の担保とコスト削減効果を両立できるのです。
4.共同開発を行うラボ型開発が主流となる中での継続性
意外と見落とされがちなのが、委託先会社との取引の継続性です。
前述の通り、仕様書を完全に定義するより、作りながら考えるラボ型開発の流れは強くなっています。
たとえば、以前の伝統的なSlerは、仕様・定義などをかっちりときめ、手順通りに開発を行っていました。一方、現在成長しているベンチャー・新興企業の場合は、最初はベータ版どころかα版以下のものでもとりあえずつくる、その中から改良し、委託先と一緒に造りあげるというケースも増えました。
そのため、オフショア・ニアショア問わず、友好的かつ長期の関係を保ち、開発を継続できるということも、大切な要素といえましょう。
オフショア開発で、いかに優れた委託先・スタッフを確保できても、スタッフが他社に移籍したり、委託先の国の経済水準が上昇し、人件費や企業の運営コストが上がってしまっては、契約を継続することが難しくなるケースも想定されます。
一方ニアショア開発であれば、海外の経済力向上や為替リスクによる単価上昇は心配する必要がありません。加えて、委託先の企業と継続的に関係性を築けること、東京に何らかのトラブルがあっても地方拠点で開発・保守を続けるリスク分散も実現でき、継続的に関係性を構築していくことができます。
働き方改革と品質向上の観点で、ニアショア開発とオフショア開発を比較して
当記事では、成果物の品質、依頼先とのコミュニケーションの取りやすさ、コストの削減効果、継続性の4点から働き方改革と品質向上の観点を踏まえ、ニアショア開発とオフショア開発を比較しました。
上記の観点を踏まえると、短期的なコスト削減ではオフショア開発というやり方もありますが、長期・継続的に外部委託を行う上では、オフショア開発よりニアショア開発の方が適しているといえましょう。
そして、ニアショアの場合はスピード感を持って委託できるのも強みです。海外ではなく国内拠点のため、コミュニケーションコストが少なく、早く委託できるというのは、働き方改革への対応が急務とされる日本企業にとって大きなメリットでしょう。
オフショア開発とニアショア開発の比較まとめ
以上、当記事ではオフショア開発とニアショア開発の比較をまとめました。
単純にコスト削減だけを見るなら、現時点ではオフショア開発が有利な一方、ブリッジ人材の能力が問われます。コミュニケーションコストや、長期的観点で見るとニアショア開発の方が優れている点も多くあります。
受託型なら開発終了で終わりですが、ラボ型開発の場合は中長期になります。よりコミュニケーションコストの少ない、かつ海外の経済成長に左右されにくいニアショア開発を検討するのも一つの策ではないでしょうか。
また、発注先に迷う場合は、発注ナビという一括比較サービスを使うのも手です。
できるだけ、自社は自社のコアに徹し、外部に委託した方が良い部分は外部に委託していきましょう。
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